わんぴーす
お邪魔します


見せられた紙の束には、筆談でもしていたのか『何の用だ』とか『船長を呼んで来る』とか『名前は?』とか書いてあった。しかしこれでは意味がわからないので、取り敢えずシャチ達の後に続いて甲板に出る扉の前に向かう。
彼らが言うには、ノックをする様な音が聞こえて来たので音源はどこかと探していたら、甲板に出る扉の窓から女が覗き込んでいたのだという。
それで筆談で会話して、女が「直接話したい事がある」と言ってきた為に船を浮上させようとしていたらしい。
船長を呼べ、と言ったのは、女がそう要求したからだとか。

「…怪しいな」
「へ?」

一番後ろを歩く船長が、ぽつり、と呟いた。

「基本的に、人魚ってのは魚人島にしかいねェ。それが何故、こんなグランドラインの入り口程度の海にいる?」
「…そういえば」
「ワケ有りか…」

面倒事じゃねェだろうな、とぼやいた船長は、言葉とは真逆に楽しそうに口元を緩めている。
ああ、楽しみなんだ、この人は。絶対ワクワクしてる。
我が船長ながら悪い顔してるなあ、と引いているうちに、目的地に到着していた。

「ほら、あそこ!」
「見てください!」

分厚いガラスの丸い窓。その向こうには海――ではなく、にっこりと笑う女がいた。
女は船長を見ると、一枚の紙を出してこちらに見せた。
『指名手配』『トラファルガー・ロー』と印刷されたそれは、船長の手配書だ。
女は手配書の写真を指さし、船長を指さし、首を傾げた。おそらく本人確認だろう。
それに対して船長が頷くと、女はメモ用紙に何かを書いて窓に押し付けた。


「…『間違いないか』?」
「オイ、『俺に何か用か』と伝えろ」
「はいっ」

船長の言う通りに書いた紙を女に見せる様に掲げる。
女はそれを読む様に視線を動かし、また何か書いてこちらに見せた。

「『頼みたい事がある』…?」
「ふっ…俺を知っているのに頼み事だと?」

船長の笑顔が、物騒な事を考えているときのそれになっている。
我が船長は残忍な海賊として有名だ。それをわかっていて敢えてうちの船長を選ぶとは。
それなりの事情があるか、もしくは相当肝が据わっているか。
どちらにしろ、船長の興味を引いたのは確かな様だ。

「面白ェ…。シャチ、その紙貸せ」
「えっ、は、はい」

船長はシャチの手から半ばひったくる様に紙を一枚奪うと、右手を宙に翳してにやりと笑った。

「『ROOM』」

透明な膜が広がる。
扉の外の女が、船長の手術台に乗せられた。
何をするか一瞬で理解した俺達に対して、女は何が起きたのか理解出来ずにまばたきを
繰り返す。
船長はシャチから奪った紙を手に、一言で能力を発動させた。

「『シャンブルズ』」

一瞬で紙と入れ替わった女は、大きなキャリーケースを抱き締めたまま船長の腕の中に落ち。
魚のそれと同じ形の尾が、ぴち、と一度だけ跳ねた。

「それで、どういう用件だ?」


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