わんぴーす
遭遇


「船長!二時の方角に海軍の軍艦が!」
「面倒だ。潜れ」
「了解っス!」


そうして潜水してから、まだ5分。たったの5分しか経っていない。
というのに。


「暑い〜」

航海士の白熊が愚痴りだした。
オレンジ色のつなぎを着た白い毛皮が、ぐったりと通路に寝転がっている。
邪魔だ。果てしなく邪魔だ。
そこそこ大きい図体をしている為に、通路が半分程塞がってしまっている。

「ベポ〜、お前もうちょい耐えろよ…軍艦はまだ見える距離にいるんだぞ」
「それでも暑いものは暑いの!」
「だからって…そこ塞がれたら船長が部屋から出られねェだろ」

ベポが寝転がるすぐ脇には船長室の扉。
そしてその向こうには我らが船長。
時間から考えて今頃は読書でもしている筈だから、特に外に出てくる様な用はないだろうが…。

「キャプテンが用事の時は退くよ」
「当たり前だろ、」

退かなきゃバラされる、と言おうとして、目の前の白熊は贔屓されている事を思い出した。
そうだ、コイツはバラされねェんだ。
狡い。卑怯だ。羨ましい。

「白熊のくせに」
「熊ですいません…」
「打たれ弱ッ!?」

ずーん、と沈んで結局床に突っ伏した白熊。余計邪魔になってしまった。
力を抜いているらしく、動かそうにも重くて微動だにしない。
このままにしておくわけにもいかないし、これをどうやってどかそうか、と考えていると、慌ただしい足音がいくつか響いて来た。
何かあったのか、と視線をそちらに移せば、シャチを先頭に数人のクルーが紙の束を持って駆けて来る。
何事だ、と問い掛けると、それぞれが口を開いて一斉に話し始めた。

「ヤベェぞペンギン!!」
「緊急事態だ!!」
「浮上!!今すぐ浮上!!」
「もしくはキャプテン呼べ!!」
「ちょ、ちょっと待て、落ち着け!」
「「「「これが落ち着いていられるかァ!!」」」」

口を揃える男共の大声に耳を塞ぐ。結構響いたぞ今の。
しかし妙だ。慌てている、と言うより興奮している様で、彼らの頬は紅潮している。
落ち着き無くやいのやいの騒いでいて、俺がもう一度何事か、と問い掛けたのは、どうやら聞こえてはいないようだった。

「…うるせェ」

ギィ、と音を立てて、船長室の扉が少し開いた。
ベポがつっかえているらしく、ほんの数センチだけ開いた隙間から舌打ちが聞こえる。
汗だくの白熊がその場からどけると、扉が完全に開いて船長が出てきた。
片手に本を持っている事から察するに、俺の予想通り読書中だったらしい。

「人の部屋の前でギャーギャー騒ぐな…」
「船長!!丁度良いや、来てください!!」
「マジやべェんスよ!!」
「あ?」

眉間にしわを寄せた船長が、唯一静かな俺に視線だけで何事かと問い掛けてくるが、俺にもわからないので首を横に振る。
すると船長はまた舌打ちをして、騒ぐ奴らに向かって威圧的に問い掛けた。

「…10文字以内で説明しろ」

どうやら、船長は少し苛ついている様だ。
部屋の前で騒いだからだろうか。バラされないうちに逃げよう、などと考えて徐々に距離を取っていると、シャチが代表で一歩前に出て、持っていた紙の束を示しながら鼻息荒く告げた。

「船の前に人魚がいます!」

ぴったり10文字で。


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