わんぴーす
いってきます!


「悪そうな奴は片っ端からツブしちゃって良いからね!夜間外出は娼婦と間違われるから出来るだけしない様に!連絡用魔水晶と電伝虫両方渡しとくから、何かあったらすぐ連絡してね!飛んでくるから!あと私の知り合いのビブルカードね、皆きっとニアの力になってくれるから!この指輪見せれば私の妹だってわかるから、これもなくさないようにね!あとこれ、お金!一応100万ベリーはあるから!あと宝石類、いざというとき売ればお金になるよ!入り用で足りないって時も遠慮しないで言ってね!無駄遣いはダメだけど、必要な投資なら糸目はつけなくて良いんだから!それからね、怪我とか病気には気をつけて、無茶はしても無理はしないで、自分を大切にね!『手掛かり』を探すのも大事だけど、せっかくの一人旅なんだから、冒険を楽しんで、たくさん色んな経験してきなよ!疲れたら何時でも私達の船においで!待ってるからね!」

以上、ノンブレスで発せられた我が姉の見送りと注意の言葉である。
長い。長過ぎる。
正直半分程は聞き流した。
この世界に来て6年も経ち、私だってもう21歳になるというのに、姉は未だ私を子供扱いする。自分は10歳頃からしょっちゅう一人旅をしていたくせに。
そりゃあ姉と比べたらまだまだかもしれないけれど、私だってこの世界に来たばかりの頃に比べたらそれなりには強くなったはずなのに。解せぬ。
渡された魔水晶、電伝虫、ビブルカード、指輪、それに札束と宝石の入った袋をキャリーケースと魔法空間に押し込むと、タイミングを見計らっていたらしい姉に抱き付かれる。
ぎゅう、と強くしがみついて来る姉を抱き返してやると、姉はうんうん唸りだした。

「…何ですか?」
「寂しいよう…」

今更何を、と溜息をつくと、姉は不満を訴える様に私の背中をぺしぺしと叩く。
痛くはないが、鬱陶しい。

「だって、ニアとこんな長い間一緒にいたのは初めてだったから…離れたくないっていうかさぁ」
「私は別に」
「ひどーい、お姉ちゃんはこんなにニアの事大好きなのにー」

更に強い力で抱き付いてくる姉を無理矢理引き剥がして、苦笑いしていた近くの船員に押しつけた。
頬を膨らまして不貞腐れる31歳児がやいやい言っているのは無視して、キャリーケースを手に取る。

「何処にいても私と姉さんの心は共にあると、言ったのは姉さんじゃないですか」
「…うん…」
「大丈夫ですよ。私達が家族であるという事実は、何があっても変わる事はないんですから」
「うんっ…!でも、わかってても寂しいのーっ」

姉はついに泣き出して、自らの恋人に抱き寄せられてその胸に顔を埋めた。
苦笑いするその人と目が合って、私もにこりと笑って見せる。
ぼろぼろと涙を流す姉なんて珍しいから、どうせ抱き付かれて役得、とか思っているのだろうな、と思いながら。

「姉をよろしくお願いします」
「おう、任せとけ!」

胸を張って言ったその人の、姉と同じ真っ直ぐな赤い瞳は、姉と同じ優しい色をしている。

「たまには顔見せに来いよ?ここはもう、お前の家なんだからな」

姉とよく似ているからかもしれない、私は彼を、兄の様に感じていた。
冒険好きで、子供っぽくて、酒好きで、宴が好きで、姉と同じくらい自由が似合う兄。
血の繋がりはないけど、彼は確かに、この世界で出来た私の家族だった。

「…もちろんです、義兄さん」
「!に、いさん、って…お前」
「では、そろそろ行きますね」

何か言いたげな表情は見なかった事にして、キャリーケースを引き摺って甲板の縁に立つ。
柵に上ると、姉が鼻を啜りながら歩み寄って来る。
行って来ます、と言えば、船員達から一斉に行って来い!と返された。
こんなに大人数からの見送りは初めてで、何だかこそばゆい。

「ニア」
「はい?」

涙声に首だけ振り向くと、鼻と目尻が赤くなった姉が、それでも真剣な表情で私を見ていた。

「頑張りすぎずに頑張ってね」
「意味がわかりませんよ…」

呆れた表情で笑ってみせて。
左の手の平のギルドマークを見せる様にして手を振りながら、倒れる様にして海に飛び込んだ。



back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -