わんぴーす
おもいでばなし


「…一応聞いておこうか」

笑顔の船長を見ると、副船長のレイリーさんは仰々しく溜め息をついて見せた。

「ロジャー、『それ』は何だ」
「懐かれた!」
「…」

船長の肩には一羽の鳥が留まっていた。
頭は黒く、頬は白く、嘴は紅く、そして羽は青灰色。
明るい翠色の瞳がじっとレイリーさんを見つめている。
オッサンの肩にかわいい鳥が留まっている光景と、オッサンとかわいい鳥が見つめ合う光景は、どちらもかなりシュールだ。

「…もう出航するんだ。もといた場所に返して来い」
「離れねぇんだよコイツ。放しても戻って来やがる」
「何だと」

船長が鳥の足を掴み、宙に投げると、鳥は慌てた様に羽ばたいて空に飛び上がった。
が、すぐに降下して来て、今度は船長の頭に留まる。
…またもシュールな光景が生まれてしまった。

「ほらな!」
「威張るな」

レイリーさんが船長を叩くと、その衝撃で船長の頭上の鳥が「ちよ!?」と悲鳴(?)を上げて転げ落ちた。
地面に落ちる前に羽ばたいて何とか飛び立ったその鳥は、くるくると船長の上を旋回する。
しばらく行き場を無くした様に飛び回っていたそいつは、何故か此方に飛んで来て、よりによって俺の頭に留まった。
被っている麦わら帽子のせいでその姿は見えないが、確かな重さを感じる。

「良いだろ、あの鳥も船に乗せる」
「は?鳥を…?何を馬鹿な事を」
「本気だ!」

呆れている表情を隠そうともしないレイリーさんに、船長は堂々と言い放つ。仁王立ちで宣言する姿は威厳に満ちているが、如何せん内容が内容なだけにいまいちきまらないが。

「なあ『ニア』、お前だって冒険してェだろ!?」

俺の少し上を見て言う船長に、鳥が「ちよ!」と返事をした。言葉がわかるのだろうか。

「な!」
「な、じゃない。名前までつけてお前…世話の仕方なんてわからないくせに。鳥なんて飼えるわけがないだろう」
「大丈夫だ何とかなる」
「その根拠のない自信はどこから来るんだ…」

はああ、と重い溜め息をついて右手で額を押さえるレイリーさん。
船長が一度決めた事を変えないのはあの人が一番わかっているだろうし、どうせただ納得いかなくて文句を言いたいだけなのだろうとは思うが。
眉間に寄った皺から察するに、相当苛立っているようだ。口の端がひくひくと引きつっていた。

「ニアは賢いから大丈夫だ。な!」
「ちよ!」
「ちゃんと俺の言う事聞くよな!」
「ちよちよ!」
「何で会話が成立しているんだ…」



**********



「何で会話が成り立ってんですか…」

訝しがる様な表情で私とニアを見る赤髪の男に、懐かしい記憶が蘇って思わず小さく吹き出してしまった。
小さく笑う私に首を傾げる彼。けれど、ニアは私が何を思ったのか理解したらしく、一声鳴くと彼の頭へと飛び移った。
ああ、そうだ。あの時も、君はそこにいた。

「…ずっと共にいたからな、彼女の視線と声音で言いたい事はわかるのだよ」
「へえ。成程、昔っから一番仲良かったですもんね」
「ちよっ!」

肯定する様に鳴いた彼女を、男が頭上に手を伸ばして撫でる。その姿すら、懐かしい面影に重なって目を細めた。
よく嫉妬していたあの男は、今頃空の向こうで夫婦円満に過ごしているのだろうか。


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