かこはくしゅ傷ついた子を慰めるはなし


「…」

「…泣きそうなのか?」

「…」


彼女はこくりと頷いて、無言で俺の手を握る。ぎゅ、と強く握られて、彼女の辛さが伝わってくる。伏せられた瞼を縁取る睫毛が揺れて、眉が八の字に垂れた。

思い出すのは、先程までここにいた彼女の「知り合い」。奴は何気ない会話の中で彼女を傷つけた。あんな奴殴り倒してしまえば良かったのに、俺の拳は奴を殴るには勿体ないと言って止められてしまったのだ。平然と帰って行く奴の背中を見送る時さえ笑顔だった彼女の何と優しい事か。傷つけられても相手の事を思っているなんて。

きっとまた、「これくらいで傷つく自分が悪いんだ」とか何とか考えてたんだろう。そんなわけないのに。
被害者が悪いなんてそんな馬鹿なことがあるか、と思ったから、涙ぐむ彼女を抱き締めて頭を撫でてやった。


「…好きだ」

「…」

「大っ好きだ。何があったって嫌いになんかならねェ」

「…」

「…全部引っ括めて愛してるから、泣いても良いんだぜ?」


少ししたら小さく息を漏らす声が聞こえて来て、彼女は震えながらそっと俺の背中に腕を回した。


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