かこはくしゅ青雉成り代わり



空は快晴、遠くの海面に鯨の群れが顔を出しているのが見える。空を見上げると、ニュース・クーとカモメが並んで飛んでいた。
私の故郷が文字通り『消え』てから、一年が経っていた。




青雉の場合




「…俺は、さ。海兵だけど、正義の味方になりたかったわけじゃあないんだ」


海兵のくせに私という賞金首を匿った男は、自転車の荷台に私を後ろ向きに座らせて、自らの能力で凍らせた海面を走りながら、唐突に口を開いた。


「『正義』って言葉を辞書で引くとな、『道理にかなっていて正しいこと』って書いてあるんだ。で、『正しい』を調べると、『乱れがない。道理・真理・きまりにあっている。真実である。』と書いてある。つまり、『正義』ってのは、『規律を守る事』なんだよな…」


自転車が揺れるのに合わせて、煤と土で汚れた私の足も揺れる。先程海に落としたサンダルは、氷漬けになってしまって、もう拾えそうになかった。
私は男が持って来た白いコートを頭から被って太陽の光を遮り、渡された水筒を抱き締めて、水平線を眺めながら男の話を聞いていた。まあ、話のうち八割は、私にはまだ理解出来なかったので、殆ど聞き流していたのだけれど。


「海軍は『正義』を掲げてるけど、その規範は自分達で決めてる。だから、境界線が民間人でなく政府の意向に近くなる。その結果どうなるのかってのは、」

「――ねえ」


私が口を開くと、男は必ず口を閉じて、私を見る。話の途中でも、必ずだ。わざわざ氷の上で自転車を停めて、上半身を此方に向けて話を聞こうとする男に、私はけれど、背を向けたままだった。


「何だ?」

「…どうして、わたしを助けるの」

「…!」


あなたに得なんかないでしょう、と言うと、男は溜息を一つつく。


「…理由を言っても、今のお前には意味はわからないだろうよ」

「…」


男は海軍本部の中将で、私の故郷を滅ぼす作戦に参加していた。
私の大切な人を、恐らく殺した。

けれど。

男は私を別の島に連れて行き、海軍から匿った。
私の大切な人のお墓に、連れて行ってくれた。

私から大切なものを奪っておきながら、それを補う様に別なものを与える理由が何なのか、知りたかった。


「…あなたは、何を考えているの」


私が問うと、男は前を向いて、また自転車を走らせた。穏やかな揺れに身を任せ、背後に耳を澄ませる。少しの間無言で自転車を走らせる男に、焦れた私が今一度問い掛けようと口を開いた時、背後から二度目の溜息が聞こえた。


「!」

「…まあ、その辺は気にすんな」


宥める様な、低い声ではぐらかされた。文句を言う前に、ぐい、と頭を揺らされる様にコートの上から撫でられて、口をつぐむ。


「今は、生きる事だけ考えとけ」

「…」

「どうしても気になるってんなら、無理矢理聞き出してみろ」


少し考える様な間をおいて、男は、今のお前には無理だろうけど、と続けた。


「いつか、な。強くなって拷問するなり、美しくなって色仕掛けするなり、賢くなって誘導尋問するなり…俺に挑んで来い。そんな目標でも、あれば未来を考えられんだろ?」






「――挑んで来いって、言ったのは貴方よね」

「そうだっけ?二十年も前の事なんざ、覚えてねェや…」

「あら、自分の発言には責任を持つべきよ。貴方程の立場にいるなら、尚更…“クラッチ”!!」


こめかみに冷や汗を浮かべながらも海軍本部“大将”の身体に腕を咲かせ、関節技を極めたロビンに、ウソップとチョッパーが悲鳴を上げた。


「おまっ…お前何やってんだよロビ〜ンッ!!」

「海軍の最高戦力に勝てるわけねェだろォ!?」

「ロビン…!?」


いきなり攻撃した、というのもそうだけれど、「ロビンが」攻撃したという事に一番驚いた。いつも冷静で、場を見極めてから行動するロビンが、不意打ちに攻撃するなんて。
ロビンの珍しい行動に驚いているのは私だけではない。ゾロやサンジ君はもちろん、今にも殴りかかりそうに暴れていたルフィでさえ、ロビンの攻撃に目を見開いた。

べきり、と音を立てて、折れた青雉の上半身が地面に落ちる。
その光景にまた悲鳴が上がるが、ロビンは二つに分かれた青雉を見つめたまま構えを解かない。どう見ても倒したのに、と疑問に思っていると、ぱき、という音が聞こえた。


「…関節技とは、考えたな」


ぱきぱきと音を立て、立ったままの下半身の上に氷が伸びる。氷は元の上半身の形になって、そして、次の瞬間には、青雉は何事もなかったかの様に無傷でそこに立っていた。


「!?」

「でも、効かないなら意味ないわ」


そういえば男の能力は自然系だと、さっきロビンが言っていたような。なるほど、実体のない自然系に物理攻撃はほぼ効かない。上半身と下半身が二つに別けられてもけろりと元通りになるのはそういうわけか。
必死に頭を働かせて逃げる算段を立てる私の前で、けれどロビンは戦う気でいるらしく、項に手を当てて首を鳴らす男をじっと見て、『咲かせ』ようとか両腕を身体の前で交差させている。
海軍の最高戦力の一人に挑もうとするなんてありえない、ルフィじゃあるまいし。そう思うものの、震え上がっているのは私とウソップとチョッパーだけのようだった。


「意味がないって事ァねェだろうが。昔教えただろ?『この世に価値の無い物はあれど』」

「『意味の無い物は無い』…でしょう?」

「覚えてたか。俺の話なんざ聞いてないと思ってたけど」

「貴方さっき『二十年も前の事なんか覚えていない』と言ってなかったかしら?」

「過去は振り返らねェ主義なんだ」

「…そう」







そう言って苦笑した次の瞬間、ロビンは全身を氷に覆われていた。





**********
あれなんか意味不明。隊長自身、首を傾げながら書いてたしね…。

ロビン視点の過去とナミ視点のW7直前でした。
この青雉はロビンにとって、ある意味ゾロにとってのミホークの様な、『いつか越える壁』みたいな存在になってる。お互い敵意はないけど殺意はある。不思議な関係。
ちなみにこの青雉、モットーは『形だけの正義』、物凄くマイペースで仕事をするのも気まぐれな人という設定だったり。



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