光の在処
夢見るアップルクーヘン

「あ、先に、ボトルとビブス片付けてきます」
「ちょっ初島、待っ…はやっ!?」

期待の新入部員は、何故か、マネージャー業が物凄く手慣れていた。
右に汗だくの先輩あらばタオルを持ってダッシュし、左に休憩に入った先輩あらばドリンクのボトルを持ってダッシュし、ミニゲームを行うと言われれば用具室にダッシュし、部活終了となればネットを抱えボトル入りのかごを持ってモップを取りにダッシュする。
自分だって練習で疲れているはずなのに、だ。

「初島ー、そーゆーのは後で私も手伝うから、今は練習しよ!」
「いえ、あの、でも、雑事で先輩の手を煩わせる、わけには」
「いーからおいで!」

目線ほどの高さにある首根っこを掴んで強引に引っ張ると、夢は慌ててついてくる。
道宮は、教育係として朝も放課後も面倒を見ているうち、この頭一つぶん大きな後輩のことが少しずつわかってきた。
押しに弱いうえ、やけに自分自身を下に見ている。なので、接する時は、ちょっと横暴なくらいがちょうど良いのだ。
無理矢理コートの中に立たせると、夢は不安そうに道宮を見つめる。
私はまだ片付け作業を終えていないのにコートに入って良いんですか?と灰色の瞳が訴えて来るのを、道宮は敢えて無視した。
あの申し訳なさそうな怯えた瞳が一気にきらきらと輝き出す言葉を、最近見付けたからだ。
道宮はボールを手に取り、狼狽える夢を見ながらさっそくその魔法の呪文を唱えた。

「サーブ打とっかなー」
「!」

夢の瞳がぱっと大きく開かれて、それからそわそわと落ち着きがなくなる。
俯きつつも期待を込めた視線をちらちら送ってくる夢に、道宮は思わず吹き出した。

「あっはっは!初島はほんとわかりやすいなー!」
「えっ」

道宮が夢の背中をばしばし叩くと、夢は何故笑われたのかわからない、といった様子で目を丸くする。
道宮は自分より高い位置にある頭に手を伸ばし、短い髪をぐしゃぐしゃに掻き回してやった。
年は一つしか違わない筈なのに、いくつも年下の子供の相手をしているように感じられるのは何なんだろう。

「サーブレシーブ、する?」

顔を覗き込みながら問いかけると、夢は滅多に見せないような、イキイキとした嬉しそうな笑顔で大きく頷く。
道宮は、可愛いやつめ、と心の中で呟きながら、夢にネットの向こうへ行くように促した。

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