光の在処カラメルに沈むプリンセス
「東京から来ました、初島夢です…バレー部希望、です。よろしくお願いします」
ぱちぱちと疎らな拍手が送られるなか、一人やけに強い視線を送ってくることに気付いた夢は、そっと目をそらして席についた。
「――夢もバレーやんのか!?」
全日程が終了し、解散が言い渡された直後。配られたプリント類を鞄にしまう夢の前に、目を輝かせた西谷が現れた。
前のめりな西谷の勢いに押されて少し仰け反りつつ、夢ははい、と小さく頷いて答える。すると、西谷は机に手をつき、ぐいっと更に顔を近付けて問い掛けた。
「俺もやってんだ、バレー!夢はポジションどこだ!?俺リベロ!」
「私は…」
答えようとして、途中で口をつぐみ、そのまま俯く。
夢は暫くどう答えようか迷って、ちらちらと西谷を見て。
「殆ど、マネージャー、してたよ…ポジション、もらえるほど…上手じゃ…なかったから」
小さな声で、弱々しく呟いた。
「そんな背ぇ高いのにか?じゃあ、憧れるポジションとか、やりてえポジションとかはねーの?」
蚊の鳴くような小さな声もしっかり聞き取った西谷が、きょと、と首を傾げると、夢はますます下を向く。
憧れる、やりたいものはある。
けれど夢は、自分はそれを口にしてはいけない、と思っている。
前はそれを言った為に、バレーボールが出来なくなりそうになった。
同じ間違いを犯したくはない。
「(それに、これは私の『我儘』だから、言ったら西谷くんに引かれてしまうかもしれない)」
せっかく出来た友達に嫌われたくない、という思いが、夢の口を固く閉ざした。
当の西谷は、ただポジションを聞いただけで沈んでしまった夢に戸惑い、頭上に疑問符を浮かべるばかりである。
何か聞かれたくないことでもあったのかと考えてみるも、人の地雷を踏みそうな話題では無かったはず。
夢が何故黙り込んだのか理解出来ないので、西谷は、ただ率直に問い掛けた。
「俺、何か答えにくいこと聞いたか?」
「…その…それは…」
聞き方によっては責めているようにも聞こえる言葉に、夢は口ごもる。
その様子で、成程夢にとっては答えにくい話題なのだな、ということを把握した西谷は、そうか悪かったな、と思ったことをそのまま告げた。
何故答えにくいのか西谷にはわからないが、夢が嫌がっていたのなら謝るべき、という単純な思考で。
――そうすると、今度は夢がきょとんとする番である。
怒られているのかと思ったら即謝られて、その空気の切り替わりに目を白黒させる。
夢が思わず顔を上げると、西谷は話し掛けて来た時と同じように、その大きな瞳でただ夢を見ていた。
そこにあるのは好奇心、友達のことを知りたいという気持ち、それだけである。
怒りだとか苛立ちだとか、そういった夢を責めるような様子はない。
そのことに漸く気付くと、夢は心から安堵した。
「じゃあ聞き方変えるな!バレーボール好きか?」
そして改めてされた質問は、夢でも即答出来る内容で。
「うん…好きだよ」
「そっか!俺もだ!」
笑って同意した西谷に、夢は、初めて、ぎこちなくない本当の笑顔を見せた。
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