たいようのかけら
秘密基地と日常


椋は、昔、どこぞのクソガキに瞳を貶されてから、外で顔を隠すようになってしまった。
黒衣の様な頭巾を被って、家以外の場所では決して脱ごうとしない。たとえ俺と二人きりだとしても、そこがうちの敷地内でなければ頑なに隠そうとする。
だから、椋の素顔を知っているのは、俺と親父と母ちゃんと、あとは火影様くらいなもので、アカデミーの生徒達の間には、『顔に大きな傷があるのを隠している』だの『実は盲目』だのと根も葉もない噂が流れていたりする。

「お前の目を見たら石にされるんだとよ」
「『天日』には、にんげんを化石させる力は無いよ」
「知ってる」

椋の瞳は、淡い青色で、凍てつく氷、もしくは晴天の空の様な色をしている。
よく見ると星空の様にキラキラと輝いているのが不思議で、綺麗だ。
俺はあの色を、『真昼の星空』と呼んでいる。
親父に聞いたところによると、あれは『天日(テンジツ)』といって、太陽の力を持つ瞳で、霧桐の一族は全員あの瞳をしていたらしい。
『真昼の星空』が沢山並んだ光景なんて、想像しただけで眩しい。実際かなり眩しかったというのは、霧桐の集落に行った事があるという親父の談だ。
まあ、『天日』は実際に光るのだから、それもそうなのだろうが。

「あ、あとあれだ、のっぺらぼう説もあったな」
「…えー」

『太陽の力』とはよく言ったもので。『天日』は発動すると光を放ったり、植物を育てたりする。
本来は一瞬で大木を出したりする様な事も可能らしいのだが、椋はまだ制御出来ていない為にそんな大層な事は出来ない。
それどころか時々無意識で発動させてしまい、歩いた跡を小さな草むらにしたり、寝ながら布団を花畑にしたりしてしまう。

「あ」
「何?」
「また草伸びてんぞ」
「!」

今も、座っている椋の周りの草だけが異常に伸びている。
よく見ると、椋の目の辺りが光っていた。それを指摘すると、椋は慌てて布の上から光っている辺りを手で覆い、うんうん唸り始める。

「おー、伸びる伸びる」
「うう…待って、今止めるから」
「落ち着け。焦ってるとまた猫じゃらし大量発生するかもしんねーだろ」
「あう」

もさもさと伸びて広がる雑草をよけて腕を伸ばし、頭を頭巾越しに撫でてやると、椋はゆっくりと深く息を吐いた。
発動させるのは無意識で出来ても、止めるのは難しいらしい。時間がかかるのは分かり切っているので、その場に寝そべって空を見上げた。

「…ヒナタに『瞳』の制御教えてもらおうかな」
「何でヒナタ?」
「日向家には『白眼』っていうのがあるって言ってたから。切り替え方のコツとかわかるかなと思って」
「なるほど」

しばらくして瞳の光が治まった頃には、空が赤く染まり始めていた。
俺達の周りだけ異様に深くなった草むらは、もう面倒くさいので放置する事にする。
例えばここがアカデミーの庭なら多少の草むしりはするが、どうせ人のあまり来ない秘密の場所だ。草むらが一ヶ所だけ不自然に深いからといって、気にする人もいないだろう。
ぺしぺしと目の辺りを軽く叩く椋の手を引いて立たせ、土を払ってやる。
服が汚れると母ちゃんに怒られるだけでなく、椋の場合着いた土から芽が出たりするのだ。
本人は全く気にしないのだが、背中が花畑な人間の隣を歩くのはこっちが御免こうむるので、念入りに叩いておいた。

「早く帰んねーと母ちゃんキレるぜ」
「大丈夫だよ、私のせいだって説明するから」
「それはそれで椋のせいにすんなっつって叱られんだよ」
「…男の子は大変だね」
「本当にな」

暗くなってくれば、椋の瞳が光った時に目立ってしまう。
半分ほど沈んだ夕日を見ながら、少し急ごうと繋いだ手を引っ張った。


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