たいようのかけら
かつて私は星の一部だった


私は、一人だった。

私は、緑色の壁に囲まれた、四角い森の様な部屋にいた。床は土で、沢山の植物が生えていた。
私はそこで、一人で生きていた。
時折どこからか人が現れて何かを話すのは聞いていたものの、私の事は背景だとでも思っていたのか、声をかけられた事はなかった。
そこら辺にある大きな葉っぱを羽織り、大きな黄色の花の上で眠った。それが、私の一番古い記憶だ。
植物は枯れても、残した種がまた育つ。だから、私は『巡る』事しか知らなかった。
『巡る』、『繰り返す』事が全てだと思っていた。
だから私も、起きて、果実を食べて、近くに落ちている大きな葉を身体に巻き付けて、大きな花の上で眠る、それを繰り返していた。
いつか私も周りの植物の様に花を咲かせ、実をならせ、種を落とすのだと、本気で思っていた。
自分が植物だと、心から信じていた。

『繰り返し』が、終わるまでは。


「――…何だ、ここは…!?」

その日は、大きな音で目を覚ました。
ゆっくりと起き上がり、周りを見回すと、緑色の壁が一ヶ所、無くなっていて、そこに、人間がいた。
彼は木の葉の忍であったのだが、人間を見慣れていなかった当時の私には、『また人間が来た』くらいの認識しか出来なかった。
彼はすぐに私に気付き、駆け寄って来たが、私はそれには見向きもせず、喉が渇いたので背丈の低い木になっていた果実を採って、それを食べた。
何時も来る人間は私に見向きもしないのだから、彼もそうなのだろう、と思ったのだ。

「君は!?何故こんな所に…!?」
「おーい、どうしたー?」
「ちょっと来てくれ!!子供がいる!!」
「はぁ!?」

なくなった壁の所から、更に何人かの人間が現れて、私の周りに集まって来る。
ベッドの変わりにしていた花の元へ戻ろうとしたところを抱き上げられ、私は初めて驚いた。
人間が私に関わって来たからだ。

「おい、その子の目…!」
「!…そうか、この子が例の」
「こんな小さい子供を、こんな場所に閉じ込めて利用するなんて…」
「そういう話は後にしろ。今はとにかく、その子を連れて帰るんだ」

私は、人間が私に触れたので、もしかしたら、私はもう『花』になっていて、彼らは私を採りに来たのでは、と考え始めていた。
食べるのか敷くのか吸うのかちぎるのかはわからないけれど、たまに来ていた人間がいくつかの植物を採って行く所を見たことがあったから、彼らもそうなのかと思ったのだ。
だって、私は自分を植物だと思っていたから。

「さあ、もう大丈夫だよ」
「急ごう、病院にも連れて行かないと」

きっともうすぐ『種』になるんだ。
そう思って、その時私は、多分、生まれて初めてわくわくしていた。


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