異星人12匹目
「おはよう、光」
「んー…?」
声をかけると、光は目元を擦りながら欠伸をして、それから片手を上げた。挨拶のつもりらしい。
「眠そうだね」
「…何でおるん」
「オサムさんがいないと学校にたどり着けないから、朝早いけどついて来たの」
説明すると、光はばかにする様に「はよ道覚えや」と鼻で笑った。悔しいけど、道を覚えていないのは確かなので口をつぐむ。
誤魔化す様にコートを見回すと、やっぱり広くて無意識に溜め息が出た。
きっと部員も多いんだろうな。
全国常連なんていう程だし、レベルも前の学校の比じゃないのだろう。
もはや想像がつかない。
「そーいや」
「?」
「菘、前は何部やった?」
「テニス部だったよ」
まあ、一年のうちは三年のサポートで終わって、二年になってやっと練習が始まると思ったら引っ越しだったから、技術は全くないけれど。
ルールとマネジメントくらいしかわからない、と言うと、頭に小さな衝撃。
見上げると、光が私の頭にチョップしていた。
「それ部員ちゃうやん。マネージャーやん」
「う…」
痛いところを突くなぁ。
でも部員数そのものも少なかったからマネージャーなんてシステムなかったし。
マネージャーなんて役職を作れるのはこういう大きい学校の部員数が凄く多い部活くらいだと思う。
私がいた様な田舎の小さい学校は部活の存続すら危うかったっけ…。
テニス部はひと学年に十人くらいしかいなかったけど、この学校はコートの数から考えてもその三倍くらいいそうだ。
「…マネージャーだって部員だよ。ていうか私マネージャーじゃなくて選手として入部してたし」
「試合も出来へん奴を選手とは呼ばんわ」
「うぐ」
ずびし、という音を立て、二度目のチョップをくらった。地味に痛い。
「暴力反対…」
「抵抗せぇへんからや」
「両手塞がってるのにどうやって防いだらいいの」
左手にスクールバッグ、右手に弁当。これでどう抵抗しろと。
不服を訴える様に眉間にシワを寄せて見せると、三度チョップされた。解せぬ。
文句を言う前に、四度目、五度目と続く。
光は凄く良い笑顔でびしびしと私の頭にチョップをくらわせた。
「あうっあうっ」
「なら苛め放題やな」
「え」
きっと今この瞬間、光の中で私はオモチャにカテゴライズされたんだね。うん。痛い。
「痛っ、い、あうっ」
「反応おもろいわぁ」
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