異星人10匹目


「菘ちゃーん」
「はい」

呼ばれてリビングに行くと、オサムさんがソファーで寛いでいた。
何でしょうか、と声をかけると、オサムさんはテレビから視線を外して此方を向く。
長い前髪が額の上で留められており、莓のモチーフがついた赤いパッチンは母さんのものだったな、と思い出した。恐らく、見ていて邪魔だとかそんな理由で留められたのだろう。
ちょっと可愛いと思ったが言わずにおいた。

「あんなー、実はオサムちゃん、テニス部の顧問やっとってん」
「テニス部だったんですか」
「おう。で、明日朝練あんねんけどな、テニス部の朝練は学校7時集合やねん」
「はあ」

何が言いたいのだろう、と首を傾げる前に、オサムさんが申し訳なさそうに口を開いた。

「暫くは学校までの案内は俺しか出来んわけやんか。でも菘ちゃんに合わせると朝練に遅れるやん?せやから、」
「ああ、それでしたら私、朝練に同行しますよ」
「ホンマ?」
「はい。テニスは私も好きですし」

むしろ見たかったので都合が良い、と言うと、オサムさんは安心したらしい。
ならええわ、と言ってテレビに向き直ってしまった。
用が済んだのなら部屋に戻ろうか。リビングを見回すと、新たな父が晩酌していた。
…話してみようか。夕食時は母さんやオサムさんとばかり話していたから、私も少しは。
父の正面の椅子を引いて腰掛ける。
彼は少し驚いた様で、酒を飲もうとグラスに伸ばしていた手を引いた。

「…どうかしたか?菘ちゃん」
「…呼び捨てで良いですよ?お父さんなんですから」

父はきょとんとしてまばたきを繰り返すと、少し照れくさそうに頬を赤らめ、あー、とかうー、とか唸って、それから呟く様な小さな声で私の名を呼んだ。

「…っ、菘…?」
「はい、…お父さん」

それが何だかくすぐったくて笑うと、父もつられてはにかんだ。

「何や照れるわ」


後頭部を掻く父と笑い合っていると、開きっぱなしのドアから母さんが顔を出してこちらに声をかけてきた。

「ちょっと菘ー、サトル君は母さんのなんだから取らないでよねー」
「奈津子ー、俺はお前一筋やから安心しぃー」
「ちょお二人とも、独りモンの前でイチャつくんやめてもらえますー?」

新しい家族。
幸せだな、と思って、菘は嬉しそうに笑った。


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ほそく


渡辺サトル
オサムちゃんのお兄さんで主人公の新しいお父さん

奈津子
主人公のお母さん


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