花宮ちゃん漢女の硬肌

「うわっ砂あっつ!」

というわけで、海合宿である。
電車ではなく景虎さんの運転する車にて移動した私は、皆と合流するべく駅前で降りたリコと別れ、砂浜のセッティングをする景虎さんのお手伝いをしていた。景虎さんがゴールを運び、私がラインをひくという分担だ。
それからカバンを置くスペースとして、少し離れた場所にブルーシートを敷き、私の荷物と景虎さんに運んで貰ったタオルやらボトルやらを重しにする。クーラーボックスを車から降ろす際、やんわりと私を止めて代わりに運んでくれた景虎さんは紳士である。
リコに料理指導をしてから、景虎さんは私にちょっと優しくなった。リコの作ったポテトサラダが食べられる味で体に害が無いことが相当嬉しかったらしい。害があっても娘の手料理なんだからと残さず食べる景虎さんは父親の鑑。

「誠ー、ごめん待ったー?」
「や、全然」
「…!?」

準備が終わって景虎さんが去ってから、少ししてリコ達が来た。炎天下で少し汗ばんだ男どもが、砂浜のコートを見て目をみはる。

「カントク…まさかここで…」
「そ、バスケするの」
「リコ、私着替えて来っから」
「行ってらっしゃい。その間に説明しとくわ」

説明無しでこの砂浜に連れて来られた男衆にリコから話があるので、その間に私は着替えに向かう。
このコートを用意した位置は、海水浴客向けのシャワー室が近いのが良い。午前の練習が終わった後、着替えるついでに脱いだシャツを洗えるから、シャツの残り枚数を気にせず着替えが出来る。
固形の洗濯石鹸を持って来た自分を自画自賛しながら着替えを済ませて砂浜に戻ると、男連中の顔が死んでいた。合宿が辛いものになるのはわかりきっていたことだろうに、さては海を見てテンション上がって忘れてたな。
…私達が、地獄に堕ちに来たってことを。

「…うわ、花宮それ見てて暑ぃよ!」

並んだ私を見てコガが声を上げる。
スパッツやサポーターで肌色が殆ど見えない足と、速乾性に優れた長袖のシャツ。肌を出すイコール涼しいというわけではないが、確かにこれは厚着に見えるかもしれない。

「まあ一応、『痕』を隠すのも兼ねてね。いや、乙女の柔肌が見たいなら言ってくれれば有料で脱ぐけど」
「柔肌て、花宮はどうせ筋肉バッキバキだろー?全然柔らかくねーじゃん」
「言えてる。『乙女』っていうか、『乙』じゃなくて『漢』だよな。漢女(おとめ)」
「なんだと」

失礼なことを言うコガと土田に向かって砂を蹴飛ばすと、後ろから伊月にチョップされた。ずびし、と頭に落ちた衝撃にしゃがみこむ。
爆笑しているコガは許さない。二人を恨めしく睨んでいると、日向が呆れたような口調でぶっちぎり失礼なことをのたまった。

「それはあれだろ、休んでる間に脂肪がついて柔らかくなったってことじゃねーの?」
「ぶっは!ちょ、日向!これから練習なのに笑わせんなよ!」
「お前ら絶対泣かすかんな…」

夜になったら、とびきりの怪談でビビらせてやろうと決意した。



**********
リコパパは大人だから花宮ちゃんの性格とか色々見抜いて、その上で普通に女子高生と接するよりもちょっと冷たい対応してくれていたらおいしい(私が)
コガとツッチーは良い意味で悪友
日向は純粋に悪意100パーセントの皮肉
prevnext
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -