花宮ちゃん 「恐怖の原点、絶望の頂点。覚悟がなければ食べてはいけない」
「なんすか一体…?」
「今日はもう練習終わりじゃ…」
首を傾げながらも素直に集合する一年達はとても良い子だと思う。
「いいか…、さっき合宿の話が出たがそれにあたって…、俺達は今…、重大な危機に直面している」
「「「「!?」」」」
やけに真剣な顔をする日向に、此方もつられて表情を引き締める。
「今年は合宿を2回やるために宿は格安の民宿にした。よって食事は自炊だ…が、問題はここからだ」
ああ、成程。
展開が読めた、というか、思い出した。
「カントクが、飯を作る!」
確かにそれは、重大な危機だ。
事情を深く理解していない一年達が、キョトン顔で首を傾げた。
「…え?駄目…なんですか?」
「当たり前だ!桐皇との試合の時!レモンはちみつ漬けとか見たろ!!つまり、その…察しろ!!」
「料理の域はもはや完全に超えてたな」
「…!!」
いつも笑っている印象の強い木吉でさえ苦い顔で目を伏せた事で、一年達も何かを感じ取ったらしい。主に命の危機的なものを。
なんたって、リコの料理はホラー映画の煽り文が似合う程度の腕前だ。
私も去年、ものは試しと思ってリコの作ったグラタンのようなものを食べたが、一瞬意識が飛んで、気付いたら3時間経過していた。…思い出すだけで腹が痛くなる気がする。
というか、レモンはちみつ漬けて。あの有名なまるごとレモンの奴か。確か黒子が口につっこまれていた筈だが、あれはあの後どうなったのだろう。
「じゃあ自分らが作ればいいんじゃ…?」
降旗が恐る恐る手を挙げる。
まあ、そう考えるのが妥当だ。だがそれではもう一手、予測が足りない。
「そうしたいのは山々なんだが…」
「練習メニューが殺人的すぎて夜は誰もまともに動けん!!」
合宿なんて一日中選手を鍛えられる機会に、彼女が張り切らないわけがないのだ。
容赦なくビシバシ扱かれるに決まっている。
「本来なら私がやれば良いんだろうけど、君らと一緒に練習するしねー。それはちょっときついんだわ」
いや、本当に申し訳ないとは思っている。ただ、それでも私は選手として練習に混ざりたいのだ。
私の我儘で苦労をかけることは土下座レベルで申し訳なく思っているが、それでもここは譲れない。とりあえず、1年達に頭を下げた。
「ヤベ、思いだしたら吐き気が…」
「コガー!」
手で口の周りを覆って俯く小金井、真っ青になって震える水戸部。
二人の尋常じゃない怯え方に震え上がる一年。かわいそうに、降旗なんか少し涙目になっている。
「…まあ、そう怖がる事は無いよ」
笑顔で肩を叩いてやると、縋る様な目で見下ろして来る。
身長差の関係で仕方ないが、なんか私かっこつかないな、とだけ思った。
「花宮センパイ…!」
「どうせ夜は疲れで死んだ様に眠るんだから、リコの飯で死のうが変わらないさ」
「(笑顔でトドメ刺したー!!)」
にっこり、と最大限の愛想笑いで言うと、黒子以外の一年が四人ともがくりと膝をついた。
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後輩たちのほうが身長高くてお姉さんぶれない花宮ちゃん
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