花宮ちゃん私のはじまり

花宮誠には、4歳年上の姉がいる。
姉は幼い頃から、とても大人びた子供だった。何でも出来て、しつける必要が無い程の良い子。
成績優秀、容姿端麗、運動神経も抜群。両親は彼女を猫可愛がりした。
誠は、姉の望みで生まれた子供である。
けれど、姉が誠を可愛がった事は、一度も、無い。

「誠、何でやんなかったんだ!?」
「ひっ…」
「ちゃんと私の言う通りにしろよ!!」
「ごめん、なさい…」

誠は知っている。姉が『この世界』を知っている事を。
何故なら誠自身、前世の記憶というものを持っていて、その世界で『この世界』が物語だった事を、はっきりと覚えているからだ。
そして、誠が『花宮真』という人物の代わりに存在している事も、誠と姉はわかっていた。

「は…何だその顔、しゃきっとしろ!!それでも『花宮真』!?」
「っ…」

しかし誠は、自分が『知っている』という事を隠しているし、姉も、誠が『知っている』という事を知らない。
けれど、だから、姉は、誠が幼い頃から『花宮真』という人物の話をした。
どういう性格で、どういうものが好きで、どういうものが嫌いで、どういう事をして、どういう生き方をするのか。何度も何度も言い聞かせ、そして、誠に『そう成る』事を義務付けた。
誠が『花宮真』でいなければ、姉は激怒し、憤怒し、罰を与える。その為、小学校に入る頃には、誠の腹や背中は、いつでも痣だらけだった。

「何回言ったらわかんだよ!!『花宮真』はそんな顔しねえっつーの!!」
「ごめ、なさ…っ」
「泣くな!!」
「はいっ…!」

三年生あたりから、姉は誠にバスケットボールをやらせた。
部活は強制的にミニバスに入らされ、部活が終わった後と休みの日には、姉から直接指導を受けた。
本当はマーチングバンドがやりたかったのだけれど、誠が徐々に上達していくのを見る時の姉は少しだけ優しかったから、誠は必死でバスケットボールの練習をした。自分の身を守るには誠はまだ幼くて、姉の機嫌を損ねない様にする事しか出来なかったから。言われた通りのポジションについて、言われた通りのシュートを覚えて、教えられた戦略を身体に叩き込んで。一人でいる時や自室で休んでいる間も、ずっとボールを触っていた。
そうして誠がバスケットボールに必死になる様になると、姉はあまり誠に構わなくなっていった。自分が見ていなくても大丈夫だと判断したらしい。姉自身が優れたバスケットボールプレイヤーだったから、自分の練習や試合を優先する様になったという理由もあるだろう。誠が六年生になると、姉が寮制の高校に進学した事もあって、顔を合わせる事すら無くなった。
そしてその時、誠は、生まれて初めて姉の『目』から解放された事に気がついた。



prevnext
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -