三度目の正直
5月14日


「はよーツナ、聞いたか?」
「あ、おはよう山本……聞いた、って何を?」
「噂で聞いたんだけどよ、転校生が来るらしいぜ!」
「ええっ!?」

転校生。こんな中途半端な時期に、だろうか。
まさかまた我が家庭教師様の知り合い、もといマフィア関係者じゃないだろうな、と綱吉は無意識に隣の獄寺に視線を向ける。彼は言わずと知れた、リボーンが呼んだマフィア関係者の第一号である。
彼との初対面の時を思い出し、とりあえず怖い人じゃありませんように、と綱吉は両手をあわせて天に祈った。


**********


「……――白弧土睦だ、気軽に土睦と呼んでくれ」

黒髪黒目、どこからどう見ても日本人な袴姿の少女が、少し男っぽい口調で挨拶した。

「白弧さんは今までアメリカに住んでいて、日本に来るのは初めてなんだそうだ」
「日本については一応勉強してきたが、間違っている事があったら教えて欲しい。よろしく頼む」

きりっと引き締まった表情で礼をする転校生――土睦がアメリカから来たと聞いて、綱吉はほっと胸を撫で下ろした。
リボーン関係、マフィア関係は、ボンゴレファミリーがあるというイタリアから来るからだ。
アメリカならそういう物騒なものとは関係無い普通の子だろう、と、綱吉は一人安堵した。

「白弧の席はあそこだ。教科書は、届くまでは隣の生徒に見せてもらいなさい」
「了解した」

しかし、マフィア関係では無さそうというのは置いといても、土睦は少し変だった。
男のような口調は、まあ、『日本語難しい』で説明がつくだろうが、制服でなく袴姿なのは何故だろう。

「なあ、何で袴なんだ?」

綱吉が首を傾げて訝しんでいると、土睦の隣の席になった山本が、席についたばかりの土睦に笑顔で問い掛けた。
クラスの誰もが気にしていた疑問の為、視線が山本と土睦に集中する。
土睦は一瞬きょと、と目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべてそれに答えた。

「この学校の制服がまだ出来ていないのだが、向こうの学校は私服だったので着るものが無くてな。ひとまず届くまでは正装で通おうと、とりあえず動きやすいハカマにした」
「へー」

なるほど、それなら仕方ないのか。
そこで袴を選択するのが少しズレている気がするが。

「弓道部みたいでカッコいいな!」
「Thanks.」

流石帰国子女、といったふうな綺麗な発音に、教室内が沸いた。
雰囲気のわりに気さくそうな土睦の様子を見て、クラスメイト達は土睦と話したそうにそわそわし始める。
きっと人気者になるんだろうな、と感心して、そうなったら自分とは関わることも無いだろう、と綱吉は机に伏せた。
すぐに綱吉のファミリーを増やそうとする横暴な家庭教師のことなど、すっかり忘れたまま。

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