三度目の正直
彼の独白


昔、まだ俺がガキで、人間を殺した経験も無かった頃、俺は一匹の白い狐を拾った。
尾が九本に裂けている、珍妙な狐を。


見た目は、十人中十人が賞賛するような美しい獣だった。
毛色は真珠の様な光沢のある純白で、瞳は曇り空によく似た僅かに青みがかった灰色。
尾が九つあるのはある種神秘的で、あれが月の光を浴びる姿には、神代のものだと言われても信じられる程に清澄な雰囲気があり、まさに絵画のような光景だと言えた。

性格は――とても、忠誠心が強かった。
俺以外の奴には決して懐かず、俺の言葉しか聞かず、俺だけを飼い主と認め、俺以外に触れられる事をひどく嫌う。
ゆらゆらと揺れる尾を俺の断りなく掴んだ男がいたが、そいつは親指と中指と薬指を失った。

また、人を見る目もあるらしく、どんなに好意的な奴でも、狐に噛み付かれる奴は皆腹の内では俺に敵なそうとしている奴らだった。
ただし俺が利用しようとしている奴にだけは何もしないから、こいつは俺の考えを読めるのではないかと思うことも多々あった。

それから、見た目こそ芸術作品の様な狐であったが、あれには悪食のきらいがあった。
俺が与えたものならば、それが何であろうと食べるのだ。
虫、木の実、写真、炎、花束、池にいた魚。
全く見境無い。
それだけでなく、強い忠誠心のせいか、俺に敵意を向ける奴を指せば目玉を抉り、俺に喧嘩を売ってくる奴がいれば四肢を噛みちぎり、俺を殺しに来た奴らなんかは一片も残らず食い尽くされた。
あの小さな身体のどこに、幾人もの人間が収まっていたのか。謎だ。
血を浴びて白い毛のあちこちが赤く染まった狐は、あれはあれで美しい光景だったが。

あの狐はほんとうに、何をしても様になる。

たくさんの奴らに「譲って欲しい」だとか「売ってくれ」だとか言われたが、俺はその狐を手放す気などなく、また狐自身も、俺から離れる気などなかったようだ。
狐を求めた奴らは、二度と名前を聞く事すらなかった。
奴らに一体何があったのか――まあ、それは俺の知る所ではない。


その狐が俺のものである、というのは、何時如何なる時も変わらず揺らがない事実であり真実だ。
あれの命は俺のもので、その生死も俺の意思によるものでなくてはならない。
あれの全ては、常に俺のものでなくてはならない。
血の一滴、思考の一瞬すら、誰にも譲る気はない。

――それが俺の独占欲なのか狐の願望なのかは、今となっては知るよしもないが。

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