三度目の正直
9月9日 その2


辺り一面の暗闇のなか。腕の中に彼を抱いて。ここはどこだろう、と辺りを警戒する。


**********


「違う」

由恵の呟く声が聞こえて、綱吉ははっとそちらを向いた。
ランチア、と名乗って倒れた六道骸の影武者を見下ろして、由恵はち、と舌打ちをしていた。
城島犬、M・M、バーズの時にも、同じように。骸の手の者が現れる度、由恵は、焦りからか苛立ったように顔をしかめて、違う、こいつじゃない、とこぼす。
それを、綱吉はずっと『六道骸本人じゃない』という意味にとらえていた。
……だが。本物の六道骸に辿り着いた今、それが間違いであったことに、綱吉は漸く気付く。
由恵は今、六道骸を見て、はっきり『違う』と呟いた。

「おや?貴女は……」

内容まではわからなくても、由恵が何かを呟いたのは聞こえたらしい。
骸が由恵に視線を移し、くい、と眉を上げる。由恵は骸から興味を失ったのか、見当違いの方向をぼうっと見ていた。
骸は少しの間由恵を見つめたのち、はっ、と何かに気付いたように目をみはると、心底馬鹿にするような、嘲りの笑みを浮かべる。
クフフ、と小さく笑う様子が不気味で、綱吉は思わず後退りそうになった。鳥肌が立っている。

「ああ、これはこれは……『首が繋がっている』ので一瞬誰だかわかりませんでしたよ、『月から堕ちた阿婆擦れ兎』様」
「……なんだって?」

骸の言葉に、ぼうっとしていた由恵が顔をしかめて振り向いた。

「継ぎ目の無い綺麗な首ですね、と言ったのですよ。クフフ……ご息女はお元気ですか?」
「……」

何の話だろう。二人は知り合いなのか?首が繋がっている、とは?ごそくじょ?
綱吉は困惑して由恵と骸を交互に見る。ニヤニヤ笑う骸を睨む由恵の表情が、みるみる険しくなっていく。

「……わかってて言ってるとしたら、相当皮肉がきいてるね」
「皮肉だなんてとんでもない!ただ思ったことを言っただけですよ。……ああ、そういえば『山』の『主殿』のことは――」

――ドゴォッ!!
骸の後ろの壁に、轟音を上げて何かが突き刺さった。一拍置いて、骸の頬に赤い筋が現れる。
それが傷だと気付くまで、綱吉は数秒かかった。
は、と気付けば、由恵が何かを投げた体勢でいる。
足元にはずっと背負っていた布袋が落ちていて、その口から棒のようなものが僅かに覗いて見える。
――骸の向こうの壁に、由恵の得物である木製の短槍が突き刺さっていた。


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