三度目の正直
むかしばなし


わたしは、満月の夜、祠で眠っていた所を拾われたそうだ。

名前を与え、知識を与え、心を教えてくれた人は、一番最初にこう言っていた。
お前は神に遣わされた、私の為の存在(かみ)なのだ、と。


彼は、山に囲まれた小国を治める主だった。
一人の女神が彼を愛し、しかし彼に愛されず、気を引く為に生んだのがわたしだという。
一人とはいえ神を貢ぎ物にしてしまうのだから、恋する女神というのはおぞましい存在である。
けれど、無理矢理押し付けられたにも等しいわたしを、彼は引き取って育ててくれた。
生まれたばかりでまだ自我を持たなかったわたしに知識を与え、経験を積ませ、心を形成させるに至った彼を、わたしは赤子のような心で慕っていた。

わたしは彼の国に豊穣と繁栄をもたらし、他国から守り、強国へと発展させた。
それが彼の望みだったから。
わたしは彼の為なら何でもしたいと思っていたし、実際何でも出来た。
それで喜ぶ彼を見るのが、わたしにとって何より幸せだった。

彼はわたしにたくさんのものをくれたから、わたしもそれに見合うだけのものを返そうと思っていた。
彼は求めるより多く与えてくれたから、結局、全てを返すことは出来なかったけれど。
それでも、少しでも彼に報いる事が出来たら、と、わたしは彼の傍に居続けた。
それは彼の為に生まれたわたしの使命であり、彼が育んでくれたわたしの『心』の望みでもあった。

――だが。女神はそれが気に食わなかったらしい。
わたしを受け入れるのなら、わたしを遣わせた自分を愛して欲しいと、女神はまた彼に迫った。
そしてまた断られると、怒りに任せて災厄を振りまいたのだ。

わたしは彼の国に降り注ぐそれを全てこの身に受け止め、最期にありったけの力で女神に一矢報いて、そのまま死の呪いに身体を侵され、貪られて死んだ。
皮肉にも、彼に拾われたのと同じ日、満月の綺麗な夜だった。


女神はわたしに、彼を裏切ると死ぬ、という呪いをかけていた。
だからわたしも死の間際、女神と彼にそれぞれ一つの呪いを残した。
女神には『神の力を失う』という呪いを。
そして彼には、――……

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