三度目の正直
彼女の見る夢のはなし


幼い頃から、何度も繰り返し見る夢がある。

壁や天井が黒く塗り潰された、窓の無い小さな部屋。
その中心で、私は白い椅子に座っている。
私から見て、左の壁には何かの木の枝が、右の壁には長さの違う二本の槍が飾られていて、そのどちらにも、赤いペンキのようなものが、バケツから直接ぶちまけたような雑さでかけられている。
正面の壁には、白い毛皮が杭で打ち付けられている。黒に囲まれた部屋では光ってさえ見える雪のような純白のその毛皮からは、赤い液体が滴っていて、床に小さな水溜まりを作っている。
私は水滴が落ちる音を聞きながら、目が覚めるまでひたすら正面の白い毛皮を見つめ続けるのだ。


――中学に上がった頃から、その夢に変化が現れた。
黒い部屋の中、赤に塗れた二本の槍と木の枝、赤が滴る白銀の毛皮。
私は中心で白い椅子に座っている。
そこまでは変わらないのだが、それに加えて、私の後ろに誰かが立っているようになった。
私は振り向かないので、誰が立っているのかはわからない。
だが、唯一見える腕の細さと、聞こえる声の高さから、後ろに立つ誰かが女だということだけはわかった。
女はいつも、右手で私の目線の先にある白銀の毛皮を指し、左手で私の心臓のあたりを鷲掴む。
そして、私の左の耳元でこう告げるのだ。

「とりもどしたいか」

私が『是』と答えると、女は更にこう告げる。

「ならば、■■のしんのぞうをくらえ。かのたましいをくらえ」

興奮してきたのか少し早口になる女に、平静のまま『如何にして?』と問い掛ける。
女はくつくつと喉で笑い、私の心臓のあたりをとんとんと叩く。

「かんたんなことだ、こえをきけばわかる。みみをすまし、いまいましい■■をみつけよ」
『……?』
「■■にふたたびまみえるとき、おまえはすべてをしるだろう」

そう言って、白い腕はすう、と消えてしまう。
私は、そこで漸く振り向いて、自分の後ろを見る。
黒い壁の中心に太刀が刺さり、銀色に輝く半透明の布を留めてある。
それをじっと見ていると、太刀が急速に劣化して崩れ落ち、布が私の手元に飛んでくる。
そして、それを取ろうと布に触れた瞬間に私の手が黒く染まり、指先から先程の太刀のように崩れ始め――、腕が無くなりそうな頃になって漸く、目を覚ますのである。

――この夢から覚めて起きた朝は、いつも首が痛む。
喉の少し下の辺りがじくじくと熱を持って、例えるなら――そう、刃物をあてられているのに近い感覚。刃が皮膚を裂いて血液が溢れる感覚が、喉に張りついてしばらく取れないのだ。
鏡を見ても、何にもなっていないのに。
首を切られる錯覚は、『早く取り戻せ』と私を急かす。
だから私は、今日も呪いの言葉を囁く女の声が頭に響くのを聞き流し、夢で言われた通りに耳を澄まして、■■を探すのである。

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