三度目の正直
6月10日 その3


由恵は真剣な表情で綱吉を見つめる。
微かに殺気さえ滲ませた視線に綱吉が一歩後退りすると、代わりに獄寺が一歩前に出た。
綱吉を庇うように前を防ぎ、くわえ煙草にダイナマイトを構えて戦闘態勢を取る。

「どういうつもりだテメー……」
「見ての通り、沢田先輩に手合わせを頼んでる」
「な、何で俺なの!?」

綱吉が目を丸くして獄寺の後ろから声を上げる。
由恵は構えを解かず、そのままの体勢で答えた。

「笹川了平先輩が、自分より強い男だと」
「お兄さんー!?」

由恵が了平とどういう繋がりがあるのか、了平が何を思って綱吉を自分より強いなどと言ったのか、ボクシング部入部を死ぬ気で断ったのがいけなかったのか、と頭の中を疑問符がぐるぐる回って混乱する綱吉。
何で戦闘なんて、と考え、はた、と気付いた。
『何故自分なのか』は聞いたが、『何故戦わなくてはならないのか』は聞いていない。
獄寺と『手合わせ』を始めそうな雰囲気の由恵に慌てて問い掛けると、由恵はああ、と頷き、ダイナマイトに着火しようとしている獄寺を見つめながら答えた。

「私は強者と戦う事で強くなろうとしているんだ。だから、沢田先輩にも相手をして欲しい」

そう答えてから再度、頼む、と口にして、由恵は綱吉に視線を向ける。
気付けば、獄寺も指示を請うように綱吉を見つめていて、綱吉はうぐ、と口籠もった。
痛いのは嫌だし、喧嘩なんかしたくないし、どうにかこの状況から逃れる術は無いものか、と視線を右往左往させる。
――そして目に入った人物に、綱吉は表情を最大限に引きつらせた。

「殺す気でいけよ」

銃口を綱吉に向けた家庭教師様が、何時も通りのニヒルな笑みを浮かべて引き金を引いた。




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