おかん女子
\おかーさんがんばってー/


飯崎は人気者だ。

どのくらい人気者かと言うと、バレンタインや誕生日、クリスマス等のイベントがある度に、それこそ下駄箱と机の中がいっぱいになって、机と椅子の上に山盛りになるくらいたくさんの、チョコレートやプレゼントを貰う程度には人気者だ。
黄瀬も人気者っちゃ人気者だが、飯崎のそれとはニュアンスが違う。
黄瀬がアイドル的な意味で女子に人気なのに対し、飯崎はお母さん的な意味で男女両方にモテる。
恋愛的な意味でもモテない事もないが、ただ、母親を女として見る奴はそうそういない。…つまり、そういう事だ。

さて、この二人の『人気』の違いがよくわかる一つの例として、『試合の応援に来るファン』がある。
黄瀬の場合は他校生や一般の人の割合が相当多い。
もちろん海常生もいるが、それより観客席を埋める私服姿の女の子達が目立つ。黄瀬を生で見るチャンスに、ファンは敏感らしい。あちこちから黄色い声援が聞こえる為、森山のテンションが上がるという副産物がある。
対して、飯崎の場合は海常生が多い。
特に同級生が多い。当日オフの奴はもちろん、部活時間や大会、試合と被っていなければ運動部でも来る奴はいるし、それどころか、会場が近ければ自分の試合前や試合後にも応援に来たりする。マザコン達は執念深いのだ。
観客席の一部を陣取る彼らは、それはそれは素晴らしく息のあった連携を見せ、海常高校女子バレー部の応援をする海常生(主に3年)の結束力、団結力は凄まじい、と、他校に噂が届く程である。

そんな、飯崎の応援にかけるマザコン達の情熱の一部とその盛り上がりようを、今年の春から今年のIHにかけてダイジェストでお見せしよう。


【4、5月。大会が始まる。】

「大会日程と試合会場、メールで送ったから回して!」
「応援行きたいけど会場の場所知らないって奴、これに名前と連絡先書いとけば里山が当日駅から会場まで案内するよー!!」
「差し入れは代表で加藤が用意して持って行くから!一人二百円まで出資受付中!」


【6月、順調に勝ち進んでいく。】

「日曜に羽鳥んちで横断幕作るってー!他クラスの助っ人も一クラス一人まで受け付けるっつってたけど誰か行くかー!?」
「美術部と手芸部が協力して旗作ったらしい!メッセージ書き込んで応援に持って行けってさ!」
「当日行けない奴用にLINEで女バレ実況・結果報告グループ作るから、参加する奴は実原に連絡なー!メールは結果報告だけだけど、欲しい人は相沢にメアド教えといてー!」


【7月、全国大会に向け練習も厳しくなり、士気も上がってくる。】

「オレ明日近所の神社に女バレ優勝祈願行って来る」
「遅くない?私達は春のうちに行って来たよ」
「それは早過ぎっしょ!」
「そういえばバスケ部もインハイ行くって言ってたな」
「あー、後輩がキセリョ応援しなきゃって騒いでたわ」
「お前は良いの?ファンだったろ」
「バスケと女バレは日程ズレてるから両方行くわよ」
「ああ、なるほど」
「全校応援楽しみだわー」
「その前に自分の大会あるわーさげぽよー」
「頑張ればはるかちゃんに褒めてもらえるんじゃ」
「ぜってー優勝するわ」
「お、おう…」


【8月、IHなうである。】

わあわあと歓声溢れる会場内、応援に来ている海常高生達が観客席の一角を占拠している。
つい先日IHを終えたばかりのバスケ部もいる。お前ら敗退したばかりだろ練習はいいのか。
というかうちのクラスほぼ揃ってるけどお前らほんと飯崎大好きだな。まあここにいる時点で俺も人の事言えないけど。

「飯崎ーーーーーー!!」
「飯崎さあああああん!!」
「はるかーーーーー!!」
「飯崎せんぱあああい!!」
「何か、オレらの応援と全然違うんスね…」
「種目も性別も違うんだから当たり前だろ」
「はるかセンパーイ!頑張ってー!」
「飯崎さーん!勝ったら森山が手料理振る舞うってー!」
「ちょっ待って何勝手な事言ってんの!?」
「あっはるかこっち見てる」
「何か言ってないか?」
「…『や』、『く』、『そ』、『く』、『だ』、『よ』…!?おい、約束になってしまったじゃないか!どうしてくれる!」
「聞こえてたの!?この騒ぎの中で!?しかも距離もあるのに!?」
「ていうか先輩も何で飯崎先輩の言ってる事がわかったんスか!?」
「普通わかるだろ?」
「…愛の力だね!」
「母子の絆ですねわかります…」
「しかしこれは…帰ったら即料理の練習しないと。飯崎さんに不味いものを食べさせるわけにはいかん!」
「そこで約束を守るっていう選択をするところ、森山君の長所だと思うよ、うん」
「…あっ!!」
「ちょ、今の見た!?」
「オレ鳥肌立った…」
「流石はるかさん…!」
「黄瀬、あれが板をも割る飯崎のスパイクだ」
「女子であの威力ッスか…!?話には聞いてたッスけど実物超怖っ!!」
「飯崎さん格好良い…!」
「今日のはるかちゃん気合入ってるわー」
「森山効果か」
「森山効果だね」


手作りの横断幕やら旗やら応援グッズやらを手に、マザコン達の最後の戦いが始まる――!

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