おかん女子
母の愛は何より強い(迫真)


それは例えるなら、映画なんかで見る様な、ロケットランチャーで壁を撃ち抜く時の音だった。
ドカン、という、低くて重くて、腹に響く爆発音。
音の発生源の近くに転がるのは、青白黄の三色で、片手で掴めるサイズのボール。形からしてバレーボールだ。
そして。

そのボールを使って前述の音を立てた人物は、数メートル離れた場所に仁王立ちしていた。

「…うちの子に、一体、何をしているんだい?」

口調は穏やかだが、声には明らかに怒気がこもっている。
そこに何時もの優しさや柔らかさは一切なく、ただ、彼女の怒りと敵意のみが、滲み出ている様だった。

「その子達から離れなさい。…次は、当てるよ」

彼女は背負っていたエナメルからもう一個ボールを取り出して左手に持ち、右腕を振り上げる。
彼女の打ち出すそれに相当な威力がある事は、さっきボールが当たって真っ二つに割れた木の板を見れば一目瞭然だ。
俺達を囲んでいた男達が、顔を青ざめさせながら距離を取ろうと後退る。
俺ははっと我に帰ると、後ろに庇っていた後輩達の腕を引いて彼女の方へ逃げた。
男の俺が逃げるというのは何とも格好悪い話だが、俺は荒事に耐性はないし、対処法も無かったから、彼女が来てくれて助かったというのが本音である。
後輩の安全の為とは言え、女の背中に隠れるなんて情けない事は、もう二度と御免だとは思ったが。

「さっさと失せな!」
「チッ…オイ、行こうぜ!」

彼女の一喝に怖気づいてか、男達がばたばたと走り去って行く。
男達が人ごみに消えて行くのを見届けると、俺ははあ、と息をついた。
後輩達も緊張が解けたのか、その場にしゃがみこんだり膝に手をついて深く息を吐いたりしている。
俺達を助けてくれたヒーロー、いやヒロインは、俺達が全員無傷なのを確認すると、威嚇の為に打ったボールを拾って、ついた砂を払いながら、俺達を安心させる様に微笑んだ。

「皆が無事で良かったよ」
「ああ、ありがとう…えっと、隣のクラスの奴だよな?名前なんだっけ」
「…――飯崎はるか」



「――っていうのが飯崎との出会いだ」
「何それ超カッコいい」
「飯崎の雄姿を間近でとか…超羨ましいんだけど」
「飯崎さんの顔から微笑みが消えるところが想像つかん…」
「てか、木の板を割るスパイクって何スか!?強!?怖!?」
「何言ってんだ黄瀬、飯崎ならそのくらい余裕だろ」
「飯崎さんだしな」
「あの人な(ら)出来(る)ぞ!!」
「お前も出来るんじゃね?試合中の飯崎見てコピーして来れば。お前男なんだし、飯崎より力強いんだから相当なもんになるだろ」
「やんねッスよ!?」
「大丈夫。あの時割れた板、そんな厚くなかったし!お前なら余裕でいける!」
「そういう問題じゃ…あれ?これもしかしてオレが再現する流れッスか!?何で!?そんなに見たいなら本人に頼めば、」
「何言ってんだお前。飯崎は忙しいんだぞ」
「女バレのエースをそんなくだらない事で呼び付けるつもりか」
「バカか?バカなのか?」
「これだからデルモ(笑)は…」
「これだからシャラい奴は…」
「オレ何で責められてんスか…っていうかオレだってバスケ部のエースなんスけど!?」
「お前と飯崎を並べんなバカ」
「口を慎めよ愚か者め」
「エースとしての信頼度が違うんだよ」
「解せぬッス」

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