優しいお兄さん +

「あの子」は美人でいつも笑顔でよく気がきいて誰にでも優しくて皆に好かれていて皆を好いている、「見た目も中身も完璧な子」。
異性からも凄く人気があって、そりゃもう毎日取り合われてる。

けれど実は、「あの子」は「完璧な子」なのではなく、自分の気持ちを全て殺して、「世間から見た理想」、「完璧」を演じている子で。
一人きりになるかお兄さんと二人だけになると、人を嫌う気持ちや殺してきた意志や怒りや憎しみ等の負の感情がぐちゃぐちゃに混ざり合ったものが「破壊衝動」として現れる。
「破壊衝動」はとっても素直。思った事はすぐ口に出すし、やりたい事はやりたい時にやりたいだけやる。表情も感受性も豊かで、少し演技がかった話し方をする。
「○○ちゃんは嫌い、○○くんは気持ち悪い、○○さんは死ねば良い!首を絞めながら、内臓を引きずり出しながら、皮を剥ぎながら、指先から少しずつ切り落として、バラバラのパズルにして、並べて積んでくっつけて、そうだ、お城を作ろう!素敵でしょう?」


お兄さんは考えた。
「あの子」は「破壊衝動」を抱えたまま生きて行くのだろうか。
毎日自分を殺して、「完璧」を演じて生きていくのだろうか。
いつか恋人だって出来て、結婚して、幸せを掴んで…、

…「あの子」の恋人になる人間は、「破壊衝動」を知った時、果たして変わらずに「あの子」を愛し続けられるのだろうか。

手のひらを返した様に(父や母の様に)「あの子」を捨てたりしないだろうか。
もしそんな事があれば、「あの子」は(また)「破壊衝動」を自己嫌悪してしまう。
そうなればその感情を糧に「破壊衝動」が(更に)強くなる。
強くなった「破壊衝動」によって、相手が(父の様に)壊されてしまえば、その事でまた自己嫌悪して、…いつか「あの子」が「破壊衝動」に塗りつぶされてしまうかもしれない。

(「破壊衝動」も確かに「あの子」だけれど、「破壊衝動」だけが「あの子」というわけではないので、どちらかだけになってしまうのは、その時点で「あの子」の死と同意ではないだろうか。)


お兄さんは「あの子」が傷つくことを懸念して、ある日「あの子」に恋する人達に宣言する。

「あの子」が欲しければ、まず「あの子」を嫌え、と。
それでも「あの子」が愛しいと言うならば、「あの子」が君を愛しいと言うならば。
俺は心から祝福する、と。
「『ほんとうのあの子』を見つけて、あの子の全てを愛していると誓ってくれ。それが出来ない奴には、あの子を任せることは出来ない」



理想的な人間が現れて「あの子」が幸せになるまでを、お兄さん視点で書くシリーズとか。
「破壊衝動」だけを愛する奴とか、表の「あの子」ごと「あの子」の全てを壊してしまおうとする奴とか出てきたりしたら楽しそう。


「あの子」は主人公でありがちな設定だけど、そういう主人公より寧ろその子を支えるポジション(お兄さんとか親友とか)の心情の方がドラマチックだと思うんだ…。
他人に理解されようとしない善意とか、自己犠牲前提での献身とか、設定の濃い人がサブで脇役がメインなものとか大好きです、はい。
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