刀の心の所在 +
物心つく前、母が手を滑らせて落とした包丁を掴もうとして、私は手のひらを切った。血がどんどん溢れて床を汚していくなか、母はパニックを起こしながら救急車を呼び、四つ年上の兄は顔を真っ青にして狼狽え、まだ赤ん坊だった二つ年下の弟は激しく泣き出し――私は、包丁に見惚れていた。
小学生の頃、はさみで折り紙を切ろうとして指を切った。次に、版画を彫る途中に手を滑らせ、彫刻刀で腕を切った。そして最後に、調理実習の時間にクラスメイトが落とした包丁で足を切った。先生方が慌てて保険医を呼び、クラスメイトが私から距離を取る傍で、私はやっぱり、それらの刃物に見とれていた。
中学生の頃、家族で行った博物館で、私は初めて日本刀というものを見た。真っ直ぐ伸びた刃の怪しげな銀色の輝きに、いつかの記憶を思い出し、思わず服の上から腕の傷痕をなぞる。はさみや包丁なんかよりずっと鋭い刃物は、遠くガラスの向こうに隔離されていた。
歴史の授業で習ったことによれば、昔の人はこの大きな刃物で人間を切っていたらしい。この刀も、人間の首や腹を切ったことがあるのだろうか。目の前にある刃が自分の身体に食い込み、赤い血を飛び散らせるところを想像しただけで、身体の奥のところがカッと熱くなった。ゾクリと痺れるような感覚が一瞬で頭の天辺から爪先まで走り抜け、膝の力が抜けて目の前のガラスの壁に両手をつく。自分の心臓の音が大きく聞こえ、激しい動悸が止まらなくなった。気が付いたら首まで真っ赤になっていたらしく、熱中症かと心配した父に休憩所へ連れて行かれてしまったが、視線はずっと、刀に向いていた。
その時は、刀を見ながら思い描いた妄想とそれに対する自分の感情がひどく汚ならしいものに感じられて、罪悪感から、自分を心配してくれる家族の顔を見ることが出来なかった。けれど、それでも、銀色の輝きはずっと頭から離れてはくれなかった。
――私は、すっかり刀に心を奪われてしまっていた。


**********
このあとこの主人公は刀を使いたくて剣術道場に通い始め、刀への愛ゆえにすごく強くなり、審神者に勧誘されてホイホイ政府の施設へついて行き、物理的に強いからって呪われ本丸(呪術系審神者がよその審神者を呪おうとして呪い返しくらった)にぶち込まれ、主のとばっちりで呪われて強制闇堕ちさせられた刀剣達を持参の刀でずばずば倒し、そこの本丸で(鍛刀されたまま顕現させられてなかったため)唯一無事だった同田貫正国を拾い、それを使って全ての元凶であるそこの本丸の主を斬り伏せ、そのままその本丸の審神者になって、拾った同田貫正国と二人(一人と一振?)で戦います。
その後、出会ってすぐいきなり人を斬る感覚を叩き込まれて『誰かに使われて何かを斬る』ってことに本能的な快感(変な意味じゃなく)を覚えたたぬが主人公に惚れて(ただしあくまで『自分の持ち主』として。主従愛的な感じ)演練場で主人公の隣を歩きながら他の刀剣達に無意識で凄く誇らしげにドヤ顔してたり、「形は人間でも俺は刀だ」ってスタンスを決して崩さない刀としてのたぬに惚れ込んだ主人公が演練場で他の刀剣を見て「あんな人間らしいのは刀じゃない!!」って謎の落ち込み方して皆ああなら他の刀剣男士はいらないやって鍛刀しないしドロップも拾わないしで政府に怒られて仕方なく鍛刀したら御手杵が出て案外すぐ馴染んだりします。
それでたぬとぎねだけで演練行ってたらよその本丸の審神者や刀剣に絡まれて、「食事なんて、まるで人間みたいなことするんだな」とか言っちゃったせいで主人公がブラック本丸疑惑かけられて連行されて、その間別の本丸に預けられたたぬとぎねがそこの審神者に「あんたは、自我があるんだから俺にも持ち主を選ぶ権利があるって言ったよな。なら、あの女(主人公のこと)に俺を返せ。俺は、あの女が良いからあそこに残ったんだ…あの女に振るわれる為に未だここに『ある』んだ。…俺は、あの女に振るわれて折れるんだったら、それこそ本望だ」「俺達は武器なのに、何で武器であることを求められるのが不幸なんだ?あんたよりもあいつのが、俺達のありのままを認めてくれてる。だって、俺達は人間の真似事をする為に刀剣男士になったんじゃない、戦う為になったんだ。…あいつの所にいれば、俺はまた戦える。何も考えず、ただ一振りの槍に戻れるんだ。だから、あんたの求める人間らしい言い方ってのをするなら…俺は、あいつの槍でいたいなあ」とか言って、言われたそこの審神者が審神者交流掲示板にスレ立てして、出陣する時以外は顕現せずただの刀・槍として飾っておき出陣前と後に丁寧な手入れをするという刀剣男士をとことん刀として扱うやり方がブラックなのか否かで議論して、たぬとぎねを預かってる審神者から担当管理官経由でスレを知らされた主人公の担当管理官が、政府のカウンセラーによって主人公の「刃物で斬りつけられること、またはそのような妄想に性的な興奮を覚える」っていう性癖が明らかになったことを関係者はもとよりスレ民にまでバラして、恥じらいながら「刃物しか愛せない」とか「正国に斬られる想像だけでイケる」とかカミングアウトする主人公にスレは沈黙、担当管理官はドン引き、ぎねは何かに納得、たぬは何故か「結婚しよう」って言い出してカオスになる。
刃物・刀として愛されるのが嬉しくて桜が止まらないたぬと、「どう使われるか」より「使われるかどうか」が重要なので他人事なぎねと、死ぬときは正国に斬られたい系異常性癖審神者の無用本丸爆誕スレが審神者交流掲示板で伝説になるオチかな…。

最終的には主人公の精神構造上の問題で一部の刀剣しか扱えないって政府が公認してブラック本丸疑惑は晴れるけど、「人間らしい体と心があるんだから人間のように接するべきだ」って主張する勢力からはめっちゃ嫌われます。この本丸の、刀でありたいたぬの唯一の人間らしさが「主人公のものでありたい」っていう欲にあるところとか、槍でありたいぎねの唯一の人間らしさが「戦場に出たい気持ち」に起因しているところとか、とにかく「現状に問題はない」ってことを、全部理解しているのは担当管理官くんだけなので、担当管理官くんが頑張ってこの本丸の事情を周りに理解させない限りは主人公の元へ定期的に呪いの品が届く。「刀剣男士を無機物扱いなんてひどい!」って人達の中の過激派からどんどんヤバいものが届く。
ちなみに、もしそれで主人公が死んだらたぬとぎねは他の本丸に引き取られるわけだけど、このたぬは主人公を心から認めて持ち主として愛していたから従っていたというワガママっ子なので、「鍛刀や戦場でも『同田貫正国』は入手出来るんだから、『俺』でなくても良いだろ。俺は『俺』をあいつ以上に使いこなせる人間がいるとは思えねェ」って他の審神者に従うことを拒否して刀解を希望するから担当管理官は頭が痛い。無理矢理異動させると1ヶ月くらいで引き取った審神者がギブアップする程度には主人公に執着してるからやっぱり刀解するしかない。ぎねは特にごねることもなく素直に引き取られるけど、出陣以外の時間になると顕現を解いて槍に戻るのが習慣になっているので、『人間らしく過ごすこと』を強要し過ぎる本丸ではストレスで具合悪くなる。畑仕事をさせ過ぎると勝手に出陣して敵の首を刈って来て自分(槍)の先に刺した状態で畑に刺さって自ら案山子になるし、馬当番をさせ過ぎると馬どころか鳥とかウサギとか別の生き物にまで拒絶反応出し始めてお供の狐にも近付けなくなる。顕現状態を保つことを強要すると三日目くらいから黄疲労マークが取れなくなって、一週間くらいから赤疲労マークが標準装備になるというハイジのような繊細さなので、のびのび過ごせる本丸に出会うまで何ヵ所も転々とすることになる。結局面倒。このぎねを引き取った審神者がスレ立てしても面白そうだし、それがまた頭おかしい人だったらもっと面白そうだなって思うからわたしはほんとに刀剣男士をどうしたいのか

とりあえずたぬとぎねのファンには土下座しておきますね
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -