青峰の彼女のはなし書きたい +
「○○さん!」
「…?」
桃井さんに呼び止められ、立ち止まる。話があるというので、私は桃井さんに向き直った。
「何?」
「青峰君の事!…どうしていつも、サボりを勧める様な事言うの?○○さんが言ってくれれば、青峰君だって部活出ると思うの!」
「あー…」
やっぱりその話。そういえば、桃井さんときちんと話すのはこれが初めてだ。
丁度良い機会だし、私の考えについて話しておこう。私は右手に持っていた画材を左手に持ちかえて、空いた右手を桃井さんの目の前に突き出し、人差し指を立てた。
「?」
「まず、私には一般的な倫理観というものがないの。欠落してると言った方がしっくりくるかな。私には善悪がわからない。これが大前提」
「え」
それを踏まえて聞いて、と告げると、桃井さんは表情を引き締めて頷く。そこまで真剣なつもりはなかったんだけど。
「私は、欲求に忠実なものこそ至高、って思っているの。したい事をしたい時にするのが、一番自然で美しいって」
「は…?」
「だから私の中では、自分勝手で我儘で唯我独尊に生きてる姿が、大輝君の良い所」
桃井さんはまだわからないらしく、首を傾げている。私の考えが気に入らないのか、眉間にシワが寄っているが。
「…○○さんは、青峰君があれで良いとでも思ってるの?」
「桃井さん、私は言ったよ?『自分勝手な所が良い』って」
大輝君はあのままが素敵なのに。俺様何様青峰様、とでも言うような態度がたまらないのに、何故私が導かなければならないのだ。わざわざ好きな人の良さを妨げる様な事をする人間なんていないだろう、と告げると、桃井さんはぐ、と口を閉じた。
「私、大輝君の為なら死んだって良いくらいには本気だよ。彼の生き方に陶酔してるからね」
呆然とする桃井さん。私は画材を持ち直し、立ち尽くす桃井さんをその場に残して立ち去った。
今日は屋上で大輝君をモデルにデッサンをやる予定なのだ。あまり待たせられないな、と、歩む速度を少し上げた。