「またな」そんな普通の別れ言葉のはずなのにお前に言うことになるといきなり違う意味を持つようになる。
「また」この一言が怖いものになったのはいつからだっただろう。
いつからだっただろう、『また』と俺があいつに返せなく、返さなくなったのは。
「おーい!みょうじ!!」
聞き覚えのある声で呼ばれて俺の頭に浮かんだ黒髪の明るい太陽みたいな人気者のあいつじゃなきゃいいと思う。
そして心持ち時間をかけるようにゆっくり振り返る。
なんでこいつと会ってしまったのか…。
俺の通っているそこそこ頭のいい大学の一限目が休講になったらしく、一限目に合わせて起きていた俺には微妙な時間だった。
かといって寝るには時間が足りない気がするのもあっていつもの朝よりも余裕があった。
よって俺自身にも何だか余裕ができていて、気が緩みすぎていたに違いない。
だからいつもならならないのに空が綺麗で日差しが気持ちよさそうなんて理由で散歩に出てしまったのだ。
なんで忘れていたんだろう。
そもそも今日は夢見が悪くいつもよりも若干早く起きてしまったし、休講にはなっているしで朝からあまりいいことがなかったことを忘れていた。
「おー久しぶり、嵐山」
「ほんと久しぶりだな、たしか高校卒業以来か…」
少し目を細め、悩んでから、あっていない月日をあっているか首を傾ける。
それを普通の男がやったら気持ち悪いが、嵐山はそれを感じさせない。イケメン様はなにをしても様になるな。ふとそんな気持ちになる。
でもそうもしてはいられないので返事を返す。
「そうだったな。でもしかたねーよ、お前は忙しいからな。同じ学校じゃない今じゃ意外と会えないもんだよ」
「そうかもしれないが…あんまり連絡取れなくて悪いな」
「なに暗い顔になってんだよ。だからさっきも言ったろ?お前ボーダーの顔だし!忙しいんだから時間取れなくても仕方ねーよって」
「そういってくれるとありがたいが…でもすまないな」
「おいおい、俺が気にすんなって言ってんだからいいんだよ。それともなんだ、俺の気持ちは無視か?」
「でも…」
こういっても申し訳ない気持ちが強いのかしょんぼりしてるみたいな沈んでる顔のまま変わらない。
「でももへちまもねえよ。俺がいいって言ってんだ」
「そうか…ありがとう。みょうじ」
そこでやっといつものようにどこから出てるのか分からないキラキラした笑顔を浮かべた。
と、そこで何かを思い出したのか、あっと声を上げ、サッと腕時計を見ると慌て始めた。
これはたぶん次の予定があったところで俺にあってしまったんだろう。なんという運命のいたずらなんだ。このやろう。
苦笑いを浮かべ気持ち右にズレて道の先を示しながら嵐山に言った。
「なんか次に予定があるんだろ?早く行ったほうがいいぜ」
「すまない!今度、またゆっくり話そう!」
ほんとにすまなそうな顔では謝るので気にしてないと見せるようにひらひらと手を振った。
「早くいけ、じゃあな〜嵐山隊長さん」
あえてまた今度のところをスルーして別れの言葉。
そんな『また』の機会が来ないことを、俺は知っているから。
そしてそれを祈っている。
それからじゃあといって急ぎ足で歩いて行ったボーダーの広報を兼任する背を今日もしっかり「仲のいい俺」でいられたことに安堵しながら見送った。
それから俺も急ぎ足で部屋に戻ってベットに仰向けになって腕で目を隠す。
と、そこから頭に浮かぶあいつを思う。
いつからだっただろう、『また』という言葉をあいつにかけるのが怖くなったのは。
だってそうだろう?あいつはボーダーで他の奴らをネイバーから守る、しかも強いA級の正義の味方だ。
ヒーローだ。
俺みたいなただの大学生に時間を使わせるのは忍びない。申し訳ない。いや、
「嘘じゃないけどほんとでもない…か」
本当は中学から嵐山と仲良くなって、一緒にいて、気づいたらあの笑顔に惚れてました…なんて。
そんなバカなと思ったけどそれも事実で。
でも、俺のこの気持ちが報われないことなんてなまじ仲良くやってきてただけに分かりきっていたことだった。
嵐山はあの通りの性格で爽やか、昔から人気者でなんで普通高に来ていたのかわからないやつで、周りにはたくさんの人がいた。
そして本人が気づく、気づかないにかかわらずよくモテる。
俺が知ってる、中学高校とそれぞれ告白を受けた回数は両手両足じゃ足りない。
高校時代に彼女がいたことももちろん知っている。
だから、高校時代は気づいてからも気づく前と同じようにうまくやってきた。
高校時代は段々とボーダーでやっていくうちに忙しくなってきていたこともあって、そのままの調子でいるのは大変ではあったけど、なんとか持ちこたえて卒業したのだ。
大学に行ったら距離を少しずつ開けてく、高校までだと腹を決めていたのも良かったんだろう。
そしてついに大学進学で嵐山はボーダーと連携している大学へ
俺はボーダーと連携してない、
あいつが来なさそうな大学に絞って見つけたなかなかいい大学へ、普通の成績からそこに入るために勉強しまくった。
進学後は、最初はそこそこ取っていた連絡をバイトとか理由をつけて減らしていき、ついに距離が決めていた通りできた。
きっと嵐山は気づいていないだろうけど。
時々嵐山から連絡が来たりそれをゆっくり返したりする、そんな距離だ。
きっとこれでいい。
いや、違うか…これがいい。
無理して囲まれてるあいつの姿を見て笑わなくていい。
いつからだっただろう、『また』と俺があいつに返せなく、返さなくなったのは。
『また』と返さなくなったのは最初は距離を近づけさせないためで、次にこのできた距離感を保つためで、言ってしまったらあいつと会う約束をしてしまったみたいになるだろう。
勝手なのは承知している。けどあいつとの約束は破りたくない。
また、と言わないのはきっと勝手に距離を取って友人というポジションにいてバカやったりした綺麗な思い出のままでいたがる勝手な俺の、最後の誠実な気持ちなのです。
(まぶたの裏に浮かぶ、「みょうじ!!」
そう呼ぶ声と爽やかな笑顔に目を覆った腕の下から頬をつたっていったなにかは気づかないふりをするのだ)
2015.0105
シリアス書こうとしたらこうなった…なぜだ。でも、嵐山さんに惚れてるやつは性別関係なく多そう。この話のあとは実は離れようとしているのに気づいている嵐山さんの話が続きそう。
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