*世界はいとも簡単に*

益々慌ただしく…と言うより、浮足立つ校内。全体と言うより一部分。

休み時間ごとにあちこちに固まり何かを相談する奴らが増えたおかげで、俺の周りに湧いて出る女子達も減り、穏やかな時間を過ごせるようになっている。

店で使う備品や材料の発注は終わったし、すでに納品された備品も片付け終わった。旅行中のケーキはアナスタシアに、窓に飾る花や観葉植物の手入れもアンネリーに注文済み。残るは俺の準備だけだが、そんなものは前日で充分間に合う。

余裕をもって終わらせるなんてさすが、俺。

誰かに話せるものでもないから、自分で自分を褒めたたえる。当然口に出す事はなく心の中で。
それに、こんなに静かな休み時間はいつ以来なのか記憶にないくらいだ。

いつもの左側90度だけでなく、360度見える景色が俺の機嫌を更によくさせる。
次の授業が終われば昼休み。いつもよりも囲まれたりする事はなさそうだが、やっぱり音楽室だな、と机の中から教科書を取り出した。

「さ・え・き・く・ん?」

俯いた俺に降り注ぐ気持ちが悪いほどの猫撫で声。しかも男の野太いもの。
ヒクと唇を引き攣らせ、とりあえずは笑顔を貼り付け顔を上げ、顔の筋肉がちゃんと動いているか確認してから見上げる。

「はい?……えー……っと……?」

見下ろすその不気味な声の持ち主は、見覚えのない黒髪、短髪の爽やかスポーツマンタイプの男子。

こいつ………誰だっ……け……?

記憶の中にある生徒の顔と名前をすり合わせ始めて、その顔に気付いた。

あーー!あの時のスポーツマンA!!

すっかりと記憶の彼方に葬り去っていた、あの時の奴。いや、奴らの中の一人!

爽やかな風が気持ちよく吹く屋上で、男共に取り囲まれ縋り付かれたおぞましい記憶が昨日の事のように甦り、取って付けたような笑顔だけが張り付いたまま凍り付いたように固まった。

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