*求める事が愚かでも*

夏が過ぎると珊瑚礁の客層も様変わりする。昼夜問わず海に訪れていた男女がいなくなり、いつもの…常連客とも言える女性客達と昔から変わらず贔屓にしてくれる…じいちゃんが目当ての客。

静かになっていつもの浜が戻ったように、店内の雰囲気もいつも通り。遠くに聞こえる波音と、落ち着いたジャズのメロディー。漂う柔らかなコーヒーの香りと時折奏でられるカップがソーサーに当たる陶器の音。

「……また?」
「また?とは酷いな瑛くん。老い先短い我々のささやかな楽しみを酷いだなんて。」
「……よく言う…。そんな元気な老い先短いじじいなんていない…。」
「じじいとは酷いな、じじいとは。」
「ウチの大事なマスターを夜な夜な連れ回すんだから、じじいで充分、です。」

カウンターに座ったいつもの常連客、つまりはじいちゃんの旧友の"親睦会"と言う名を借りた夜の誘いを、片付けたカップをトレイに乗せ厨房に運びながら口を挟む。

「こらこら、瑛。じじいだなんて本当の事をはっきりと言うもんじゃない。そこは真綿に包むようにお年を召したご老人の―――。」
「………総一郎。それは真綿に包んでるとは言わない。それに日本語が適切じゃないじゃないか。」
「まあまあ、お二人とも。それに瑛くんも言い過ぎだよ?ずーっと仲良しでいられるなんて、素敵な事じゃない?…ですよね?」

俺が片付けたテーブルをダスターで拭き終わったあかりが窘める。
いつの間にかこういうやり取りにも慣れ、にこやかにカウンターに手をつくあかりだけど、最初の頃は本気で俺が文句を言ってるのかとやけに青ざめていたなと思い出し、カップを洗い始めながら小さく笑う。

「瑛くん、なにニヤニヤ思い出し笑いしてるのかなー?」
「そんなんじゃないです。ウチのマスターを連れ出すのはいいですけど、あまり飲ませないで下さい。じゃないとOKしません。」
「分かってるって。ほんっとに瑛くんは手厳しいなー。」
「当たり前です。生活がかかってるんです。遊びでやってるんじゃないんですよ?ウチはマスターがいなかったら売上半減なんです。」

洗ったカップを乾燥させる為洗いざらしの麻のダスターの上に並べ、自分の手を柔らかなタオルで拭いて表に出てくると、あかりと楽しげに笑うじいちゃんの旧友。

―――今の話、聞いてなかったのかよ!つーか…相変わらずのエロじじい達め。

カウンターに置くあかりの手を握りニコニコ……いや、ニヤニヤと笑みを浮かべ何やら話し込む間に割り込みその手を引きはがす。

prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -