*好きかもしれない*

シンと静まり返った校内。教室にも廊下にも人影はなく、時折グラウンドからクラブ活動をする生徒の声が開けた窓から風と共に流れ込んでくる。

昼間はまだ暑いくらいの空気も傾く太陽に合わせて気温を下げ、教室の中を通り抜け私が座る廊下側の席にたどり着く間にも、また冷たさが増す。

まだ衣替えを済ませていないむき出しのままの腕を撫でた風に、ノートにペンを走らせていた手を止めふるりと身震いをした。

「なーにやってんだ?珍しく勉強か?明日はゼッテェ雪降るな!」
「それは、ハリーだったらでしょ?私は普段からやってますー。」
「なんだー?反抗期かー?」
「違いますー。ハリーと一緒にしないでよ。」

目の前の扉がガラリと空くと同時に聞こえる耳慣れたからかいの声に、顔をあげる事なく答える。

相変わらずよく通る声が、それまでの静けさと何となく感じる寂しさを掻き消して、休めた手を再び動かし始めた。

「なんだ、日誌じゃねーか。そんなのテキトーに書いときゃいいんじゃねぇの?」
「だったらハリーも手伝ってよ。知ってる?放課後の窓際って寒いんだよ?」
「バーカ。オレはクラスが違うんだから、オマエのクラスの事なんて分かる訳ねーだろ。もう一人はどうしたんだよ、いるんだろ?日直。」
「んー?部活、なんだって。」

書いているページの端をペラペラと捲るハリーの指先を邪魔しないでと軽く叩きながら、何気なく返事を返すと不意にその手を掴まれ顔を上げた。

「なぁに?」
「いや?手が冷てぇな、って思って。」
「だから言ってるでしょ?窓際って寒いんだって。これからもっと寒くなるから憂鬱だなぁ。」

甲に重ねられたハリーの手がわきわきと私の手を握るのを、なんだろう?と横目に見ながらペンを走らせていると、それごと日誌がパタリと閉じられ顔を上げた。

疑問を投げ掛ける間もなく日誌を抜き取り、重ねられた手が二の腕を掴み立ち上がらせられる。

「ちょ、ハリー。何?」
「オマエの腕……、冷てぇ…。」

眉を寄せたハリーに引きずられ、シャーペンを掴んだまま窓際の席へと連れて行かれ…心臓が一度、高く跳ねた。

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