*キスしたかったから*

……本当に約束なんてしてたのかな……?

お昼休みの廊下で瑛くんにチョップされてから随分考えたんだけど、やっぱり日曜日に約束なんてした記憶がない。

そもそも私から誘う事はあっても、瑛くんから誘われた事なんてないはず、だし……。
瑛くんが言う、"約束したらしい日曜日"の朝、待ち合わせ場所である『はばたき駅』に向かっている。
かなり早く出て来たから、ゆっくり歩いても余裕で間に合うはず。だけど…ちょっとだけ、気が重い。……重い、って言うより…瑛くんがよく分からない。

この間のあれ、も…。

確かに瑛くんにとって、私が一番近い存在なんだろうけど…あれだけ周りに可愛い子がいる中で、ただ近くにいるだけで私を選ぶなんて…どう考えてもご乱心としか……。

「遅いっ!って言うか、何処まで行く気だ!」
「ったっ!も〜、痛いっては!…って、あれ?瑛くんだ。」
「瑛くんだ。…じゃないだろ。俺の前を通り過ぎて何処まで行くつもりなんだ!」
「あっれ〜?私、いつの間にここまで来たんだろ?」

腰に手を当てしかめっつらの瑛くんを前にキョロキョロと辺りを見渡す。
駅が見えて来たところまでは覚えてるんだけど…。

「……で?まず俺に言う事は?」
「あ…オハヨウゴザイマス。……遅れてごめんなさい。」
「ん、素直でよろしい。…じゃ、行くぞ?」
「……あ、うん。」

下手な言い訳をしようものならチョップが飛んできそうな不機嫌な表情に、ここは素直に謝った方が得策とペコリと頭を下げると満足そうな笑顔が見え、当たり前のように手を取られて歩き出す。

いつもと変わらないけれど、いつもと同じなのが……。
私だけが気にしているようで…。
あーいうのって……男の子にとってたいした事じゃない、のかな?
瑛くんぐらいモテれば、経験ないって事はないんだろうし…あんな事言ったけど、手慣れてた…よね?きっと。
初めてだったから誰かと比べようもないけど、あんなに…あんなに……。

「……どうした?難しい顔したり赤くなったり……また百面相か?」
「へっ?なっ、何でもないっ!ほっ、ほら、早く行こ?あ〜、楽しみだね〜?」
「………ぷっ、へんな奴。」

ぼんやりと考えてたはずがかなり考え込んでいたようで、瑛くんの訝しげな顔に覗き込まれて顔を上げると水族館の前。
頭の中を覗き込まれるような涼しげな瞳に、慌てて手を引く。

今いる瑛くんはいつもの瑛くん。
きっと…ただからかわれただけに違いない。

ここで私の態度がおかしいのが分かったら…絶対『おまえからかうの、面白いから。』とか言い出すに決まってる。

……うん、きっとそうだ。

ほとんど無理矢理自分の中で結論付けて薄闇色の世界へと足を踏み入れた。

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