*そんな君は知らない*

なんだかここ数日でどっと疲れた気がする。
手紙なんて、貰い慣れていない物を一生分貰って、呼び出されて告白なんて人生初体験をして。
その上、瑛くんのご乱心……。

そう、その言葉がぴったりで、そうとしか思えない。
この…隣に並んで変にご機嫌な同級生。
どの辺りがそうなのか分からないけど、羽学のプリンスと呼ばれている男の子。

確かに背は高いし、見た目もハンサムなのだろう。
頭もよくてスポーツは出来る、そして男女問わず優しい……らしい。

らしい…と言うのは、今までその優しい部分を単純に見た事がないから。
出会いが出会いだったせいか、学校でみんなの前で話す時以外、優しい部分にお目に掛かった事がない。
たいてい優しい時は裏に何かある。

……そう、最近の瑛くんのように。

実際普段の瑛くんの方が、生き生きしていて同年代の男の子らしくて素なんだろうけど…。

ちらりと隣に並ぶその二重人格者に目を向ける……恐る恐る。
海岸沿いの道を海側で歩く彼の向こう側は青い海が輝いていて…黙っていれば見とれてしまう…のかもしれない。
こんなチョップ大魔王と知らなかったら…ほとんどの女子生徒と同じように遠巻きに騒いでいたのかもだし。

「……なんだよ。まだ文句あるのか?でも、昼からは静かになってただろ?」
「そうだけど…。でも瑛くんの取り巻きさん達だって――。」
「心配するな。おまえには迷惑掛けないようにするから。」
「う、うん…。」

緩いチョップの衝撃が後頭部に入って、鞄を持ってない手でとりあえず頭をさする。

……痛くなんてないけど。

本当に、今日の瑛くんは…おかしい。
何処がどうっていうのは分からないんだけど、まず私と付き合ってるっぽい雰囲気を出す事がおかしいんだよね。
女の子達の誘いを断る事が面倒だからって、今までそんな態度なんて絶対見せなかったのに…。
それに…旅行が終わったらどう言い訳するつもりなんだろう?

あ、そっか!いつもの手八丁口八丁の優等生佐伯くんでだ!

微妙に納得して頷いていると、眉をしかめた瑛くんが私を見下ろしていた。

「なっ、なにっ?」
「おまえ…百面相…気持ち悪い…。」
「ひどっ!こっちは色々あって混乱してるのにっ!」
「あははっ!許容量オーバーしすぎ。」

立ち止まり文句を言うと楽しげに笑い髪を靡かせながら瑛くんは歩き続けるから…慌てて小走りで着いて行く。
同じ場所へと…今日は珊瑚礁でのバイトの日。

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