*一歩踏み出す勇気*

どうしたんだろう………。

お日さまが当たりそこだけがぽっかりと穴が空いたようになった、持ち主のいない席。

昼休みが終わる間際に教室に戻った時にはまだ女の子達に捕まっているのかな、なんてくらいにしか感じていなかったけれど、お昼からの授業が始まってもいっこうに教室に戻らない瑛くんなんて初めてで、頬杖をついた顔を黒板の左端の方に向け、先生の話を聞いているふりで誤魔化しながら、ちらちらと視線だけを窓際後方、一つだけ空いた席へと送る。

それが当たり前なんだ…いつの間にか。
自分からは逃げるような行動しかしていないくせに、姿が見えない時だけ気にするなんて自分勝手すぎるとは思うけれど、同じ空間に瑛くんがいると思うと安心する私がいるんだ。

静かな教室の中にカツカツと黒板を打ち付けるチョークの音がしてぼんやりとしていた意識をハッと元に戻す。
私が手を止めたところからずいぶんと進んでしまったらしく、「ここは次の小テストの範囲です。」なんて声が聞こえてきて、頬杖をついた腕を下ろして慌ててノートに目を向けた。

これ、瑛くんはどうするつもりだろう?きっと困るよね?……もしかしたら。万が一だよ。貸してって言われた時に……、ううん、復習する時に自分で読めなかったら勉強出来ないもの。

まるで言い訳でもするように、いつもより丁寧な文字で黒板に書かれたものをノートに書き写していたのだった。

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