*僕だって恋くらいする*

店はダメ。もちろん学校は人目があってますます無理。唯一、自由の利く昼休みにはあっという間に姿はない。

携帯も電源を切られていたりアドレスも変えられていたら連絡の付けようがなく、かと言って家へ電話を何度もかけるのは、あかりの親に悪く思われていないとは言え気がひける。

八方塞がりの状況にお手上げだ、と溜め息をつきながら休み時間を利用して借りた辞書を図書室に返そうと階段を上がると、同じ階にある音楽室の中から針谷が奏でるギターの音色が廊下に漏れていた。

―――もしかしたら……いる、かも…?

聞き覚えのあるメロディは、あかりがよく弾かせていたもの。針谷のオリジナルではないらしいそれは、誰のものなのかは知らないけれど、少し切なくなるような…普段から音楽には縁遠い俺の耳にも残るもので、足を早めて扉を開ける。

「………………あ。」
「………ん?………期待ハズレ、ってツラだな?」
「……………別に。なんの事か分からないし。」

いつものように窓際の机に腰掛け、組んだ足にギターを乗せた針谷が俯いていた顔を俺に向け、ニッと人懐っこそうな笑みを見せる。

見透かされたのを隠すように針谷が腰掛ける机に近付き、がたがたと椅子を引き出すとドサリと腰を下ろす。
メロディではなく、ポロンポロンと音を合わせるように気のない音を奏でていた針谷がその手をぴたりと止めた。

「なんかあっただろ。あかりと。」
「…………なんで。」
「バーカ。あかりが昼も顔出さないんだから、なにかあった事くれぇ気付くって。……なにがあった?」
「………なにも。」
「なにもって事あるわけねぇだろ?これだけあからさまに何日も―――。」
「………な・ん・で・も・な・い・ん・だ!……俺、これ返しに来たんだった。じゃあな。」
「―――――佐伯―――!」

たった僅かの休み時間に何を針谷に話そうとしていたのか。そもそも、針谷に聞かせられる事なんて何一つあるはずがない。

――――バカじゃないか?俺。

そんな事を頭に浮かべながら扉を開けると、よく通る針谷の引き止める声を残したままピシャリと扉を閉め、残り少なくなった休み時間を気にしながら慌てて図書室へと向かったのだった。

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