*平行線を辿る日々*

「おっす。またせたな?で?メシは?」
「う、ううん…まだ。先に食べるのもどうかと思って…」
「別に気にする事なんざ……ま、いいけどよ。」

隣に腰掛けるハリーが購買の紙袋からパンを取り出し、いつもと変わりない態度で食べ始める。ハリーの事だから単刀直入に聞いてくるんじゃないかとびくびくしていたから、拍子抜けした気分でお弁当の包みを解き始めた。

「で?オマエが佐伯を避ける理由は?」
「……ぐっ。…ゴホゴホ……。……ハリー……いきなりすぎだよ…。」
「バーカ。のらくら時間かけても仕方ねぇだろうが。で?なにがあった?」

相変わらず食欲はないけど一人よりは食べようという気にもなり、ご飯を一口放り込んだ途端のハリーの直球に、含んだご飯が気管支に入ってむせる。
慌ててお茶で流し込み涙目でハリーに向き直るとその目は案外真剣で、食べかけのお弁当に蓋をし箸をその上に置いた。

「………瑛くんね?………彼女がいるんだって。」
「…………………。ハア?」
「それもね?年上なんだって。」
「ンなわけ……。っつーか、佐伯が言ったのか?」
「ううん、クラスの男の子。…え、と…―――。」

あの時……。私が教室に戻った時は、後ろの方で男の子達が真剣な顔で輪になっていた。なんとなく見た事がない珍しい光景に、気後れしながら音を立てないよう少し開けた扉の隙間から聞こえてきたのは、聞き慣れた瑛くんのちょっと作った声。

今までそんな風に男の子達と雑談している姿を見た事がなかったけれど、たまたま目にする機会がなかっただけで本当は仲のいい子達なんだろうか、なんて軽い気持ちで開けた途端に聞こえてくる内容は、まるで私との行為を目の前で再現しているようなもので。

私の名前が出されているわけでもないのに、恥ずかしくて堪らなくなって。今動けば誰かに気付かれる、気付かれたら赤くなっているはずの私の顔も…もしかしたらその相手が私だって事も………。

「―――佐伯の彼女って年上なんだろ?」

騒いでいる周りの男の子達の中から聞こえてきた、その声は一段と通って聞こえて。一瞬で真っ白になった頭の中に、その声だけが何度も繰り返されていた。
そして、今でも。その声は頭から離れないのだ。

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