*平行線を辿る日々*

「わがまま言ってすみません。じゃあ、お先に失礼します。」
「いえ、いつもこっちが我が儘言ってますからそれはいいんですけどね?本当に一人で大丈夫ですか?やっぱり瑛に送らせた方が……。」
「大丈夫ですよ!今日は早く帰らないとって分かってましたから自転車で…それに、あっという間なんですよ?」
「でも、時間も時間ですし、お嬢さんを一人帰すわけには……。瑛の奴も着替えてますからやっぱり……。」
「あ、いけない。急がないと…。え、と、瑛くんにはごめんなさいって伝えてください。それじゃあ、マスター、おやすみなさい!」

ちらと階段の先を気にするマスターに慌てて頭を下げ、そそくさと裏口から外に出る。

店の脇に立てかけた普段は使わない自転車のスタンドをそっと上げたつもりが、思ったよりバネの力が強く暗闇の中ガチャンと大きな音を響かせ肩を竦める。

気付かれる、そう思った瞬間バタンと窓を乱暴に開ける音と私の名を呼ぶ瑛くんの声が同時に降ってきて思わず見上げると、髪を戻しシャツを脱いだままの瑛くんがTシャツを持った手で窓を開けたまま見下ろしていた。

「あかり、送っていくって言っただろ!そこで待ってろ!」
「い、いいの!今日は本当に…。」
「いいから!そこ、動くなよ!今……。」
「ご、ごめんなさい!本当に急いでるから!おやすみなさい!」

バイト中も出来る限り話せないようにと忙しく動いて、店が終わった後も二人っきりにならないように一人で帰れるようにと一旦家に戻り自転車で来たのが気に入らなかったのか、怖い顔で睨み付けたまま見下ろされるのが堪らなくなり、最後まで言葉を聞かずに慌ててサドルに跨りペダルを踏みしめ、私の名を呼ぶ声を置き去りにして走り出しスピードを上げた。

堤防沿いの緩い右カーブでペダルを踏む足を止め、まだぼんやりと明かりが灯る店に顔を向ける。

まだ窓辺に立っているのか、人影が黒く浮かび上がって少し心が痛んだ。

それでも瑛くんの口から何かを聞かされるのは嫌で、陥っていくのが分かる悪循環から目を逸らすように顔を戻し、止めた足に力を入れたのだった。

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