*平行線を辿る日々*

鉛のように重い足。
乾いた爽やかな風も雲ひとつない薄い青色の空も気持ちのいいものなのに、一歩一歩学校へと足を進める度に少しずつ砂が纏わりつくように重くなっていく。

まるで砂浜を全力疾走で走っている時のように。

明るい笑顔で挨拶を交わし雑談しながら登校する生徒達の中を一人うつむき加減で歩いていると、左肩をバシと叩かれびくとその肩を跳ね上げさせた。

「オッス!…って。なーに辛気臭いツラしてんだよ?」
「あ、ハリーおはよう。別に…ちょっと頭が痛いだけだよ…。」
「なんだ、風邪かぁ?オマエの事だから腹でも出して寝たんだろ?」
「んーん、ちがうよ?ちょっと寝不足なだけ。薬も飲んできたし…効いてきたら平気。」
「そっかぁ?旅行も近いんだし、あんま無理すんなー…って。お?相変わらず囲まれてんなぁー。朝っぱらからご苦労なこった。」

眉を上げ楽しそうなハリーが親指をくいと指す先には、いつもの見慣れた光景。
ぐるりと一周女の子に取り囲まれた瑛くんが、今日の青空のような爽やかな笑顔を振りまいていた。

前へ進めないからか、困ったように眉を下げる瑛くんに矢継ぎ早に何かを話しかけている女の子を見て、ハリーが意地悪く笑う。

「あのプリンス面がどこまで続くか見ものだよなー。オマエ、そろそろ助け舟出したいんじゃねえの?」
「……毎回言い訳なんて思いつかないよ。今は登校前なんだし。それに、これから授業があるんだからあの子達もそんなに引き止めたりなんかしないよ。」

目立つハリーが隣にいるせいか、私達に気付きちらりと私を見つめた瑛くんの瞳が何かを言いたげに揺れる。
それは周りの女の子達には分からない程度のものだったけれど、いつも傍にいる私には分かりすぎるものだった。
その縋る様な視線を気付かなかったフリをしてゆっくりと逸らし、前を見据える。

自分が口にした言葉を自分で破る訳にはいかない。私はもう、瑛くんの隣には並ばないって決めたんだから。

ゆっくりと近づいてくる瑛くんと取り囲む女の子達。もしかしたらこっちを見ているかもしれない、と思うと顔がだんだんと俯く。

コンクリートの所々に転がる小さな石ころばかりを目で追っていると、私の足元にひとつ転がってきてこつんと当たり顔を上げた。

「……いーのかよ、アイツ、そのままにして。」
「……だから、言ったでしょ?学校にも着いてないのに朝から言い訳なんてないよ。今、声を掛けるほうが怪しまれちゃう。」
「…オマエ、なんかあっただろ。いつものオマエならそんな事いわねぇっつーの。」
「なんにもないってば。私だって、こんな大勢の中で睨まれたくなんかないの。ほら、行こ?」

さっきよりもゆっくりになる歩調が耐えられなくなり、急かすようにハリーの前に出る。私の言い訳に納得してない顔も、擦れ違う時の瑛くんの視線も見なかった事にしたのだった。

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