*世界はいとも簡単に*

強く噛み締められた唇、涙は流していないが泣いた後のような赤い瞳が俺を射るように睨み付ける。

「だから違うんだって!あいつらが言ってたのは―――!」

からかって何度も怒らせた事はあるが、ここまでのあかりを見たのは初めてで、誤解を解く言葉も思い浮かばず、ただオウムのように同じ言葉を繰り返した。

「…別に誤魔化す必要はないでしょう?私と瑛くんはただの友達。付き合ってるとかそんなんじゃないし、私だってそこまで自惚れたりなんかしない。」
「別に誤魔化してなんか―――。」
「ただ単に、そういう事がしたいからって私、分かってた。でも、瑛くんに大切な人がいるのなら、私はもう瑛くんの傍にはいられない。中途半端な事は嫌だから、バイトはちゃんと続ける。」
「だから話を――――。」

なにを勝手に誤解して、なにを勝手に結論づけてるんだよ!俺の話をちゃんと聞けよ!

そう言いたいのに、あかりは俺の声すらも聞きたくないとばかりに俯いたまま話の腰を折り続ける。

「でも………、もう私に話しかけないで。私は都合のいい女の子にはなりたくない。そんな運命なんて……いらない―――!」

キッと見上げたあかりの瞳はさっきよりも真っ赤で溢れそうに溜まる涙。それでも流れる事はなく、唇を噛み締めるともう話す事はないとばかりにくるりと背を向け俺から遠ざかる。

―――引き止めて、ちゃんと誤解を解かないと――。

そう思っているのに、身体が凍り付いたようにその場から一歩も動く事が出来ない。

『運命なんていらない』あかりの悲痛な声が俺の声を出させる事も、足を動かす事も。すべて忘れたように真っ白になり、その場に立ちすくみ続けた。

「おかけになった番号は、現在電波の届かない所におられるか―――。」

何度掛けても繋がらない携帯。送り返されるメール。家に掛けた電話もあかりが黙って受話器を下ろすらしい。
さすがに何度も家に電話を入れるのは気が引け、携帯に掛け続けていればもしかしたら繋がるかもしれないと、履歴を押し続けている。

あかりの事だから、少し落ち着いたら俺の話を聞いてくれるはず。なんだって笑ってくれるはず。

あかりが一番俺の近いところに、一番俺の事を知ってるんだから。

そんな淡い期待と願望が儚く散り、簡単にあかりとの繋がりなんて消えてしまうって事を知るのはすぐ目の前の事だった。

世界はいとも簡単に
END

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