*世界はいとも簡単に*

静まり返った図書室。
でも、ただ静寂が漂ってるわけではなく、ペンを走らせる音、紙を擦るようにページをめくる音、ヒソヒソと遠慮がちにされる誰かの声、それを窘めるような図書委員の咳ばらい。

日当たりのいい一角を陣取り明日の予習をしていた俺は顔を上げ、壁にかかった掛け時計の時間を確認した。

―――そろそろ…頃合い…か?

閉められた窓の外から漏れ聞こえてくる部活動をする生徒の声。運動部特有の声とは反対に廊下からはさほど聞こえて来ないざわつきに、生徒数も減っているはずと教科書とメートを閉じ鞄にしまうと静かに席を立つ。

もともと勉強するためにいる奴らは俺の事を特に気にする事もなく、立ち上がったところで顔を上げる奴はいない。

HRも終わった直後に真っすぐここに辿り着き、勉強ついでに時間を潰していた俺は、かなり沈んだ気分のまま図書室を後にしまた教室へ戻るため廊下を歩く。

案の定、目の前に人の姿も気配もなく、廊下の窓からは固そうな緑の桜の葉の間に見える笑い顔の生徒達。その中に混ざって帰りたいわけではないが、大きな溜め息をつきながら階段を下り重い足取りで教室の前にたどり着いた。

――――よし。………行くか。

意を決するように深呼吸して扉を開けると一斉に振り返る顔がぱっと明らむ。
それは言葉にされなくても待ち侘びていたと表れていて、引き攣りそうになりながらも平然とした顔でそいつらが輪になる教室後方真ん中辺りの誰かの席へと近付いた。

「さすが佐伯だな?ちょうど最後の生徒も出て行ったところだよ。じゃあ、そこ。座って?」

この、どうしようもないグループのリーダーに当たるのか、ニコニコと笑顔を見せるスポーツマンAが自分の前の席を指し示すとそこに座っていた奴が立ち上がり、必然的に机の周りを取り囲む奴らがゆらゆらと動きずれる。

―――いよいよ逃げられなくなった―――。

そんな事を考えながらも頷くと十戒のように割れた奴らが俺の動向を見守るなか、静かに足を進め席へと座ったのだった。

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