新学期が始まったばかりだというのに、去年とは違いあっさりと夏休みボケから立ち直った連中の会話は数日先にある旅行の話ばかりで。
それも2日間ある自由行動を誰と過ごすか。
この一点のみに集中しているようだ。
いいよな、気楽な奴らばかりで。
俺と言えば、留守中の店の事で頭がいっぱいで…。
実際、自由参加の行事なら間違いなく店を選んでいる。
正直なところ修学旅行にも京都にも興味はなく、ただ面倒なだけで。
普段からうるさい女子達がいつにも増して騒がしく、誰と行くんだだの、一緒に行こうだの。
それを一つ一つ笑顔で断らなきゃならないのが余計に疲れを倍増させる。
かと言って、適当な相手を選んでしまえば後々面倒なことになるのは目に見えてるし。
深く溜め息をつきながら、休み時間を自分の席で過ごす。
考えている事はたった一つ。修学旅行の一週間は長い。
その間のヘルプは夏に海の家のバイトに来る大学生やらに来て貰うのでよしとして。
問題は備品やら材料の発注。保存の効く物は旅行前の俺がいる間にして…。
「なぁなぁ、佐伯。」
納品があまり多いとじいさんの腰が心配だから…。
「佐伯ってば!!」
「―――えっ!?」
教科書やらノートを広げ勉強に見せかけながら、店の事で頭をいっぱいにさせていた俺が顔を上げるといつもの女子達―――。
ではなく、クラスの男子達に囲まれていた。
「ごっ、ごめん。つい勉強に没頭してて。なっ、何か用かなっ?」
「あのさ……佐伯…。」
「うん。」
「俺達に…さ…。」
「うん。だから…なに?」
間が長すぎるんだよ!休み時間が終わるじゃないか。
こっちは色々段取り考えるので忙しいって言うのに!
男なんだからはっきり言え!
…とは言えず、優等生の笑顔を貼り付けたまま次の言葉を待つ。
「あのな?佐伯。恋愛の極意を教えて貰いたいんだ!」
「…………。…はい?」
何だって?恋愛の……極意…?
*こんなの不条理だ!*