*世界はいとも簡単に*

「あー、遅くなっちゃった!お昼食べる時間残ってないよー!………って、どうしたの?二人とも。」

勢いよく開く扉と同時に聞き慣れたあかりの声。針谷はニヤニヤと笑ったまま片手を上げ、俺は不機嫌な顔のまま頭を反らしその声に向いた。
俺と針谷を交互に見つめるあかりが、なにかあったのかときょとんとした顔で近付く。

「いんや、べつに?ちょっと昨日のお笑い番組が面白くてな?なあ、佐伯?」
「あ?あぁ、……まぁ。」
「そうなの?でも、瑛くんがテレビの話って珍しいね?」
「ん……まぁ、な?」
「たまには佐伯だってバカ笑いしてぇんだよ。コイツ普段から疲れてるんだし。それよりあかり、遅かったけどなんかあったか?」
「あ、それがね?聞いてよ。はるひちゃんったらね?―――。」

針谷のフォローに気を逸らせたあかりが、なにやらプリプリと怒り出す。たしかに上手く誤魔化せたかも、だけど……。

バカ笑いしたのは俺じゃなくておまえ!
しかも人が真剣に悩んでるって言うのに、例え話がお笑い番組ってなんなんだ!
それに、俺は普段から疲れてなんかないし!

ジロリと睨む俺に気付いるはずの針谷は、あかりが開くスナック菓子に手を突っ込みながら素知らぬ顔を決め込み、俺の方を見ようともしない。

そのくせ顔だけは薄くニヤニヤと笑っているものだから余計に腹が立ち、俺もその横から邪魔するように手を突っ込み針谷の邪魔をした。

「もうっ!二人とも!そんなにしたら、袋が破れちゃうよ!」
「オレじゃねぇだろ!オレじゃ!」
「…なにを言ってるのかな?針谷くん。きみの食い意地が張ってるせいなんじゃない、かな?」
「テメェ…佐伯。今ここで洗いざらいブチ撒けてやってもいいんだからな?」
「え?なに?なんの話?」
「さぁ?何を言ってるんだか。自分の食い意地を俺のせいにしたいんじゃないか?」

向かいに座る針谷が身を乗り出し、"ここ"と突き立てた親指を下に向けて息巻くから、足を思い切り踏ん付けてやる。
『イッテェー!!』と膝を抱え込む針谷を無視して、興味津々と瞳を輝かせるあかりの口の中に手にしたスナック菓子をほうり込みとぼけた。

このくだらなくも穏やかな関係が、まさかその日の放課後に崩れてしまうなんて事も知らずに。俺はなにかを失うなんて、考えもしていなかったんだ。

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