「ぶははは!ついに来たかアイツら!っつーか、忘れてるオマエもどうかと思うけどな?普通忘れねぇだろ、女の口説き方とヤリ方だぞ?」
「ウルサイ、針谷!あかりが来たらどうするんだ!デカイ声出すな!」
「ブッ…悪ィ悪ィ。しっかし…どうすんだー?オマエに出来るのか?プリンスとしての手なずけ方じゃねぇんだぞ?」
「ウ・ル・サ・イ。なんだよ?その手なずけ方って言うのは。」
針谷のバカみたいにデカイ笑い声だけが響く音楽室。日課となったように昼休みをここで過ごしている。
もう一人の常連であるあかりは何か用があるのかまだ来ておらず、遠慮を知らない針谷の下品な言い回しに眉を寄せた。
「…………ブッ……。」
「ウ・ル・サ・イ。」
なにがそんなに可笑しいのか肩を震わせながら笑いを噛み殺す針谷が、俺の顔を見て噴き出し腹を抱えて爆笑する。
身体を前後に揺らし大笑いながらヒィヒィと涙を拭う姿に、もうどんなに怒ったところでこの人をバカにした笑いは治まらないと諦め、ふて腐れながらパックのカフェオレを手に取りストローを食わえふいと窓の外に顔を向けた。
「…………あー。笑った笑った。オレ様をここまで笑わせるとは…佐伯もなかなかやるじゃねぇか。」
「別におまえを笑わせたいわけじゃないから。」
「まあ、スネるなスネるなって。で?正直なトコ、なんとかなるのか?」
「なるもならないも、なんとかしないとしょうがないだろ。あの様子じゃ逃げられっこないし。」
「ふーん。オマエが諦めるんだから、アイツらも相当切羽詰まってたんだな?で?勝算は?」
「そんなものあるわけないだろ。」
口八丁手八丁で逃げ切るしかない、と続けようと窓の外から針谷に顔を向けると、妙にニヤニヤ面白がっているのが分かり、こんな奴に正直に話してたまるかと口を閉じカフェオレを握りしめてわざと音を立てて啜った。
*世界はいとも簡単に*