*世界はいとも簡単に*

そういえば、あれっきり静かだったせいで俺の頭の中からすっきりさっぱり綺麗に抜け落ちていたが、かなり面倒で厄介な頼まれ事をしていたんだ。

血の気がサーっというよりザーっと引き、たぶん分からないだろうが青ざめた。

「さ・え・き・くん。…そろそろ……いいかな?」
「えー………っと?今から授業だけど……なにか……?」
「またまたぁー。すっとぼけるの、上手いよな?ア・ノ。話だよ。あ・の。」

わざわざ区切る必要なんてないだろ!気持ち悪いんだよ!

とは相変わらず言えず、笑顔を張り付かせたままとぼけ通す。

「あの……?えー……っと…?」
「だから、忘れたとは言わせないぜ?俺達は切羽詰まってる、って言っただろ?昼休み―――は、なにかと都合が悪いだろうから、放課後な?人がいなくなるまで時間潰すからさ、いいだろ?」

授業開始のベルが鳴り、「じゃあな?」と軽く手を上げたスポーツマンAが自分の席へと戻っていく。去り際の「いいだろ?」は凄みのあるものではなく、どちらかと言うとそれを女子に使えばいいんじゃないかと言う「いいだろ?」で、ざわりと鳥肌がたち身震いした。

旅行までもう残る日数は少ない。
たぶんのらりくらりと逃げ切る事は出来ないんだろうと、俺とスポーツマンAとのやり取りを窺うように振り向いていた男子生徒達の面々で悟る。

針谷のあの数少ない忠告を忠実に守り、俺の顔を立てて大人しくしているらしい奴らに、そんな気遣いが出来るなら自分達でなんとか出来るだろうにと深く溜め息をついた。

この1回でなんとか奴らを納得させるしかない。あの…屋上で囲まれた時よりは大丈夫……なはず。

ただ、漠然とした知識としてしか理解していなかったあの時より…経験した今なら多少はうろたえる事もない……はず。

男女の間柄で悩む事なんて、俺には理解する事がやはり出来ない。行為そのものなら知ったかぶってなんとか言いくるめられそうだが、メンタルな部分を突いてきたら…?

―――やっぱり、お手上げなのには変わりないのかもしれない。

あいつらに囲まれた2日後にはすっかり抜け落ちてたんだ。こういう時にこそ、女子達にさりげなく聞いてみたり…なんかしたら、ただじゃ済まないか。
やれ、誰か好きな女子がいるのとか、それは何年生だの、2年なら修学旅行は一緒かだのなんだの…まったく関係ない話になりかねない。

唯一そうならない女子であるあかりはまったくあてにならない、どちらかというと俺と変わらない事がここ数日で分かっている。

―――どうすればいいんだ。

始まった授業に合わせ教科書をパラパラとめくりながら机に肘をつき、片手で頭を抱えたのだった。

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