*慌てて離した手*

「ねぇ?買い出し…じゃなかったの?」
「俺、買い出しだとは言ってないけど?付き合えとは言ったけど。」
「えっ?……そうだっけ?」
「ああ、言ってない。ほら、そんなくだらない事より、おまえを呼んだのはこれのためなんだから…早く味見してくれ。」

ベットの縁に座り、昨日の瑛くんはなんて言ってたっけ?と、ぼんやり考え始めた私の前にトレイを差し出すから膝の上に置いた。

乗っているのはコーヒーと小さな丸いモンブランが2つ。
細長くうねるように搾られたクリームは普通のモンブランよりも黄色く、もう一つは紫色。細く波状に作られた小さなチョコが真ん中に二つ刺してあり、細かなナッツでサイドを飾られて、お店で売っているものとなんら変わりがない。

……相変わらず…女の子の敵、だよね?

本格的に勉強したりプロを目指している男の子なら仕方ないとしても、こうも簡単そうにここまで上手に作られると、下手なものを作って渡すのが忍びなく感じるよ…。

今年のバレンタインに渡した唯一の手作りチョコを思い出し、やっぱり高級チョコを瑛くんでハリーに手作りチョコを渡すべきだったと心の中で溜め息をついた。

「ほら、見てないで味見する。…まあ、見た目も評価が欲しいけどさ。」
「ご、ごめん。え、と…いただきます。」

キィと音を立て、学習机に備え付けられた椅子を反対側に座り、背もたれを抱え込んだ瑛くんが椅子ごとすっと前に滑ってくる。
顎を預けて私の反応を待つように見つめられ、慌ててフォークを手に取り黄色いモンブランを口にした。

「わ…美味しい…。これ、栗じゃなくてお芋だ…。」
「正解。」
「作られた甘さじゃなくて、お芋の味が優しい甘さ。…もしかしてこっちも?」
「そ。違う種類の芋。着色とか使いたくないしさ、見た目が違って面白い、だろ?」
「うん。これくらい小さかったら2つでも大丈夫だし…お芋の甘さが違うのかな?あと、ナッツもこっちは香ばしくて…凄く美味しい!」
「そっか。じゃあ…それでいける、か。」

キィと少し耳障りな金属音をさせ椅子を動かす瑛くんの足を視界に映しながら、小さなケーキを交互に堪能し、コーヒーを飲んだ。

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