*慌てて離した手*

「……最近のおまえ、なんかちょっとおかしいぞ?なにかあったのか?」
「へっ?な、なにもないよ?いつもと変わらないんだけど?」
「……そうかな…?なんか違う気がするんだけどな…。」

いつものように店が終わって、家に送ってくれる帰り道。海沿いから住宅街に入ったところで訝しげに見下ろす瑛くんの瞳から逃れるように視線を反らし、否定するように首を振る。

やっぱり……絶対納得なんかしてない…よね…?

益々訝しい眼差しを向けられているのを感じながら冷や汗を流す。

このままだとまた、いつものようにあの鬼の眼差しと痛すぎるチョップ攻撃を受けてしまう。

走って逃げても…絶対捕まるし…捕まったら最後、今度のチョップは泣くどころじゃ済まない気がする。

どう誤魔化そうかと考えながらも、片隅には違う言葉が浮かんだ。

…………瑛くんって………ホントに鈍感というか……なんというか…だよね?

今までの、友達としての関係を一足飛びで越えて、そういう関係になってる事をまったく疑問にも感じてないどころか、今までとまったく変わりない態度。

きっと本当に私との事なんて特別、だとか…それ以前に私の事を女の子だとも思ってないのかも知れない。

や、そういう事してるんだから女の子としての認識はあるんだろうけど、女性とか異性とか…気持ちの面での認識は、周りにいる女の子達とたいして変わりない…んだろうな。

ぐるぐると周りだす暗い思考に心の中だけで溜め息をつくと、隣で歩く瑛くんの今思い出したような声が聞こえた。

「………へっ?なに?」
「あー、もう!相変わらずぼんやりだな。しっかりしろよ。明日、明日暇か?って聞いてるんだよ。」
「あ、明日ね?えー…っと……。うん、大丈夫、予定なんてないし、空いてるよ?なにか用事?お店の買い出しとか?」
「ん、まあ、そんなとこ。ホームルーム終わったら裏口集合。絶対見つかるなよ?」
「………それって、瑛くんが、なんじゃないの?」
「ウルサイ。俺はそんなヘマしないんだ。いいな?絶対にバレるなよ?じゃあな?」

私の帰りを待つ玄関先の明かりの前で、瑛くんがくるりと踵を返す。
ひらひらと手を振って帰って行く姿は、さっきまでの事は忘れているようで、少しホッとしながら手を振りかえしたのだった。

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