*慌てて離した手*

「……ふぅ。今日は結構忙しかったな?おまえも疲れたろ?それ、俺がしまうからあかりはじいちゃんの手伝い頼む。」
「……………………………。」
「あかり?どうした?具合でも悪いのか?」
「えっ!?なっ、なんでもないよ!?マッ、マスターのお手伝いね?じゃあ、瑛くん、お願いします!」

閉店後、いつもは瑛くんがしまってくれる看板を片付けようかと持ち上げた瞬間後ろから覗き込まれ飛び上がるくらいに驚く。

照明を落とした店の明かりでもはっきり分かるくらい、その距離が近すぎたから。

独特の色だけれど澄んだ瞳、形のいい唇、日に焼けてはいるけれど男の子にしては綺麗な肌。最近まで気付かなかった、女の子達が騒ぐ理由が今になって分かる。

私の分かりすぎるくらいの動揺を見て眉を寄せる瑛くんに、持ち上げた看板を押し付け慌てて店の中に戻った。

「マスター?お手伝いしますね!あ、このグラスとお皿!私が片付けます!」
「ああ、すみませんね、お願いします。……あかりさん、瑛のやつ…またなにか困らせたりしましたか?」
「へっ!?なにもないですよ!?どちらかと言うと、私が迷惑かけてるくらいですから!」

穏やかだけど訝しげなマスターの声に、後ろを向いたまま首を激しく振って否定する。

これだけ頬が熱かったら、真っ赤なのに違いないし、いつも鋭いマスターに今の顔を見られたら絶対に瑛くんになにか言うに決まってるもの。

そうなったら瑛くんの怒涛の追及が待ってる、はず。周りなんて関係ないなんて言うけど、瑛くんは自分がどう他人から見られるか凄く気にする人だから。

あの怖い目とあの痛いチョップから誤魔化すなんて絶対に無理!と、ほんの一瞬だけ硬直し、慌てて首を振ると気を取り直してコーヒーカップを棚にしまい、看板を店の隅に片付ける瑛くんに顔を見られないようモップで床を拭き始めた。

きっと俯いたら分からないだろうから――。

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