*慌てて離した手*

諦めたように抵抗がなくなる布団。

暫くじっとし、何となく気配がなくなっている事を確認しようと恐る恐る目だけを覗かせると、立ち上がり店の制服である白いシャツに袖を通す背中。

瑛くんにとってはこの珊瑚礁が本当に大切な場所。

普通の高校生としての生活も、瑛くん個人の時間も思いも、なにもかも…全部をここに注いでいる。

以前から少しだけ、本当になんとなく、もうちょっと本当の瑛くんに…普通の高校生らしくしてもいいんじゃないかと思ってたけど、彼の一番安らぐ…瑛くんが瑛くんでいられる、波音が優しく聞こえるこの部屋で数日…数時間を過ごすうちに、私の気遣いなんてただの傲慢だったと気付かされた。

詳しい事はなに一つ聞いた事もないし、聞いても迷惑なだけだろうけど、学校やお店で一緒にいるだけでは分からない瑛くんの顔がここでは見られた。

学校の制服を脱いだ時の少しぶっきらぼうな顔、店の制服に袖を通した時の神妙な、真剣な顔。

少しずつ変わっていくその顔を見てるだけで、珊瑚礁を本当に大切に、守りたいと思って行動しているのがよく分かった。

そう、今みたいな。

ボタンを一つ一つ留めるたびに店で見る顔付きに変わっていく瑛くんを見つめ、ノロノロと起き上がる。
最初の…裂かれるような…あの日ほどではないにしろ、少し動かすだけである一箇所がズキと疼く。

まだ、その行為に慣れない私の身体。

庇うようにそっと身を動かし、ベットの上に散らばった下着や学校の制服をかき集め、出来る限り手早く身に着けた。

「…制服、持ってくればいいのに。下に戻るの、面倒だろ?」
「そっ、そんな事、出来るわけないでしょ?…じゃあ、着替えてくるね?すぐお店に出るから…。」

鞄を胸に抱え部屋を出ようとする私に向かい、背中を向けたまま声をかける瑛くんに気付かれていたと顔を引き攣らせながらそそくさと部屋を後にしたのだった。

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