*求める事が愚かでも*

「ほら、サボるのもいい加減にしろよ?シュガーの補充とか、やる事はいくらでもあるだろ?」

突然割り込む俺を見上げきょとんとするあかりを奥へと追い立てると、相変わらず嫌な、意味ありげな笑顔を向けるじじい達。

「瑛くん?男の嫉妬は良くないねぇ。もっとドーンと―――。」
「あー……、そんなんじゃありませんから。とにかく!さっさと行かないと時間がなくなりますよ?―――マスター?こっちはちゃんとやっとくからご心配なく。あまり遅くならないように―――。」
「……瑛?いい加減にしなさい。お客様がいなくてもここは店の中なんだからね?それと、僕の心配より今日は早めに店じまいしてお嬢さんを送ってい―――。」
「大丈夫だって。そんなに心配しなくても。この調子だと早く店も閉められそうだし、ちゃんと送ってくから。ほらほら――…、行くなら早く行きなよ。」

あかりの事になると何故か過保護になるじいちゃんの背中を押して店から追い出すように見送る。話を聞いてなんかいたら立場が悪くなるのは俺の方。現に、奥から出て来たあかりに「瑛と店を頼みますね?」なんて。これじゃあ、どっちが信用されてるのか分かったもんじゃない。

「―――ほんとに仲がいいよね?マスター達。瑛くんもいつかはあんな感じになるのかな?」

曜日回りの為か、夏が終わって海への関心が薄れた為か、夕暮れが来ても客の出入りはさほど多くなく。発注やら備品整理やらも終わって、俺もあかりもやる事がなくなりどうせだからと看板もしまってお気に入りのテーブル席で顔を付き合わせ英語の宿題をしている。

「は?どこにそんな相手がいるんだよ。それより…そこ、単語のスペルが違う。」
「どこ、ってもちろん…って。どこ?どれ?」
「それ。つーか…自分で分からなきゃ覚えないだろ。辞書引け、辞書。」
「……学校に置いてきたもん。瑛くんのケチ。教えてくれたっていいでしょー?」
「ウルサイ。だから自分で調べろって。俺の部屋―――机の本棚にあるから。取ってくればいいだろ。」
「瑛くんの部屋なら取ってきてくれてもいいじゃない。やっぱりケチんぼだ。」

顔をくしゃりとさせ舌を出したあかりが「ケチ」「ケチ」と連呼させながら立ち上がりパタパタと奥へ引っ込む。貸してやるって言ってるのにその言われようってなんなんだ?とか、戻ってきたら即チョップだなとか考えながら、あかりより少し先の文章問題に取り掛かりふと手を止めた。

――――俺にじいちゃん達みたいになれるような奴なんて……いたか?

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