「なによぉ、その溜め息!」
「オマエなぁ……。佐伯と電話しててもその調子か?」
「瑛くんとは用がある時にしか電話しないよ?」
「ちげぇよ。風呂入っててもするのかって聞いてるんだよ!」
「まっさかぁ〜。そんな事出来る訳―――。」
あははと笑いながらそこまで話して、自分でも"どうして?"という疑問が湧いて口を閉じる。
ハリーには出来るのに、瑛くんにはしようと…それ以前にしたいと…ううん、そんな事恥ずかしくて出来る訳がない。
だってお風呂に入ってるなんて瑛くんに…男の子に知られるなんて―――。
一気にそこまで頭の中で考えて、すぐに新たな疑問符が浮かぶ。
ハリーだって男の子……だよ?
ハリーには出来て、瑛くんには出来ない違いって………なに?
「………?………あかり?聞いてっか?」
「……へっ?なにっ?」
「……ちょっとは違和感湧いたみてぇだな?しゃあないからヒント2。オレに触られる時と佐伯に触られる時のチガイ。そこんとこ、よーく考えてみろ?分かったな?」
違い?と聞き返す前に『じゃあなー』と切られ、機械音が響く携帯を耳に当てたまま言葉をなくし………固まった私は暫く湯舟に浸かったままで………当然湯あたりしてふらふらにのぼせて…ベットに勢いよく転がった。
濡れた髪のまま茹でだこのように熱くなった頬を手で扇ぎながら、ハリーが言う二人の違いを回らない頭で考えてみる。
確かに二人と触れ合う事は多い。そして特に嫌な気分はしない。
その時の違いは……なんだろう………?
例えば…そう、例えば今日。二人は同じように私の腕に触れた。最初はハリー。その時は……。
なんだろう?って思ったよね?……うん。
じゃあ、瑛くんの時……瑛くんに触れられた時は……?
パタパタと自分の顔を扇いでいた腕を止め、顔を左に向けて二の腕を見つめて記憶を辿る。
柔らかい指先がただ挟むだけといった感じで腕に触れる。
その瞬間、そこに心臓が移動したみたいにドキドキして…急に体温が上がったみたいに顔まで…そう、今みたいに…。
顔のほてりが取れない気がしてまたパタパタと扇ぎ始めながら、取り留めなく言葉を頭に浮かべ続ける。
瑛くんに触られてなんか変な気分になるのは、今日に限った事じゃない。
あの……そう、あの時から急に…今までだって嫌じゃなかったけど、あの時から急に瑛くんが男の子に見えて…触れられる度に…見つめられる度にドキドキ………。
「やだなぁ〜、ドキドキって。それじゃあ、私が瑛くんを好きみたいじゃない。」
自分で自分を突っ込むようにアハハと乾いた笑い声を上げながら、また熱くなる顔をパタパタと手で扇ぎ………ぴたりと止めた。
――――私が瑛くんを…………好き?
まっさか〜。今まで…1年以上も近くにいるんだよ?いまさらそんな事なんてあるはず………。
『バーカ。気付くのが遅ぇんだよ。』
そんなハリーのからかうような声が頭の中に響いてガバッと身を起こし、ますます熱くなった頬を両手でパチンと挟み……そして呟いた。
「まさか…だよね?気のせい…だよね?……かもしれない、だけ…だよね?」
END