*好きかもしれない*

他の男の子とは……人工的な香りとは違う瑛くんだけの香り。
たぶん他の誰も気付いてなんかいないお店の…微かなコーヒーの香り。
離れていく瑛くんの髪が窓から吹き込む風にふわふわと揺れ、ゆっくりと上げた顔が何故か不機嫌そうに私を捉える。

「……そこまで嫌がる事ないだろ。」
「へっ?なっ、なにがっ?」
「……おまえ、思いっきりのけ反って―――。……まぁ、いいけど。ほら、続き。手、動かさないと終わらないぞ?」
「え?そんな事は…。あ、は、はい!」

無意識に背中を反らせていたらしい私に向かい、眉間にシワを寄せてジロリと睨む瑛くんが顎で机を指す。
違うと否定しようと言いかけるけれど、睨み続けるその視線に"ごめんなさい"と思わず頭を下げ、慌てて日誌に向き直った。

「……ここまで来ると漫才みてぇだよな。」
「はぁ?誰が漫才なんかしてるんだよ。」
「……ハァ。オマエってさ、相変わらずだよな?」
「だから!なにが!?」
「どうせ聞いても分かんねぇだろうから言わねぇ。」

もういいと言わんばかりにヒラヒラと手を振るハリーと、不機嫌そうに噛み付き言葉の意味を探ろうと食いつく瑛くん。一人でいたさっきまでの教室の空気が、嘘のように明るくなる。
二人が続ける押し問答の声を耳に入れながらペンを走らせ、漸く日誌を閉じ机に転がした。

「できた〜!二人ともありがと〜!」
「遅せぇんだよ。時間かかりすぎ。」
「……じゃあ、帰るか。」

漸く終わった面倒な作業の開放感に大きく伸びをしていると、さっさと立ち上がる二人。瑛くんはいつの間にか日誌を手にしていて鞄と一緒に扉に向かう。

「あかりー!モタモタしてっと置いてくぞー!」
「まっ!待ってよ!置いてかないで!」

瑛くんの後に続く両腕を上げ頭の後ろで組んだハリーに急かされ、ガタガタと椅子を戻し自分の席へと戻って鞄を掴み教室の前の扉から慌てて飛び出たのだった。

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